【第240話】カエルの剣、鳥の剣

 ウシツノとケイマンの間に割って入ったのは兎耳族の拳法家レッキスだ。
 彼女は鼻をこすり上げるとその手を返し、ちょんちょん、と目の前のケイマンに向かい煽るように挑発した。

「生きとったんか。生命力の強いオナゴじゃな」

 知らずレッキスは刺し貫かれた下腹部に手をやる。

「笑ったりすればさ、まだひきつるんよ」

 腰を落とし、長めの棍を突き出した姿勢で構える。

「なれば養生しておればよいものを。むざむざと殺されに来おったか」
「だからさ、養生するためわざわざ来たんよ。あんたにリベンジしとかないと、心置きなく笑えないから、ねッ」

 鋭い突きを繰り出す。
 風を切る音が離れていても聞こえるほどだ。

「おわッ、危ないわいッ! 剣を持たぬ老人になにしおる」
「無手でも最強と言った!」
「聞いとったんかい、ぬしャァ」

 続けて連続の突きを繰り出す。
 どの攻撃も気迫のこもった烈風の如きであったが、だがそのどれをも無手の老人はヒョイヒョイとかわしてみせた。

「シッ」

 短く息を吐き出しつつ、合間を縫ってケイマンの短刀がレッキスに伸びる。

「しまッ……」

 長いリーチを保てずに懐に入り込まれたことに驚愕したため反応がわずかに遅れる。

 ガキィィン!

 その短刀を弾いたのはウシツノの刀だった。

「ちょっ」
「ぬし」

 驚くレッキスと睨み付けるケイマン。
 だがウシツノは敵ではなく助けたレッキスに向けて、

「悪いがせっかくの剣聖との闘いを邪魔しないでもらえるか」
「なっ! 助けてやったんだろ!」

 レッキスが目を見開いて抗議する。

「助けられるほどのピンチではなかった」
「糸で動けなかったクセに何言ってんよ」
「動けた」
「いいや、動けてなかったよ」
「これから動くところだった」
「強がり止めるんよ!」

 なんと目の前のケイマンを無視してウシツノとレッキスが言い争いを始めてしまった。

「オレの闘いだ。邪魔しないでくれ」
「いいや、私のリベンジマッチが先さ!」

 少し離れた位置のシャマンとクルペオは呆れていた。

「危機感が足りねえんじゃねえのか、あの二人はよ」
「舌戦も低レベルよな」

 しかしそれ以上に呆れているのケイマンである。
 剣聖。
 それはハイランド王室から与えられ、世界中に権威と強さを証明できる称号。
 まして目の前の兎耳族は一度その剣聖に腹を刺し貫かれている。

 その、ワシを前にして……。

「とにかく剣聖とやるのはオレだ。せっかくの機会を邪魔しないでくれ」
「だからこれは私のリベンジだって言ってるんよ! 人のリベンジ邪魔するなんてあんた常識なさすぎんよ」
「学がないのは認めるが、怪我人が無理するのを止めることのどこが常識外れだと」
「怪我はもう治ったの!」

「ダァーッ! いい加減にせいッ」

 しびれを切らしたケイマンの足払いを受けてレッキスがスッ転ぶ。
 そしてウシツノに対しては踏み込んで短刀を真っ直ぐ突き出した。
 ウシツノは後方に跳び一旦距離を開けて事なきを得る。

「このッ」

 素早く起き上がったレッキスが棍を大きく横振りしてケイマンの側頭部を狙う。

「……」

 避けるのは容易かったがケイマンは腕を上げその一撃をあえて受けてガードした。
 前腕に当たった棍はしかしダメージを与えられず、逆に真っ二つにへし折れてしまった。

「武器破壊ッ!」

 慌てたレッキスの背後から跳び上がる影。

「ガマ流刀殺法! 質実剛剣ッ!」

 直上から振り下ろされたウシツノの剣を、ケイマンは今度は頭上で腕を交差させて防御する。

 ガギッン!

 金属同士がぶつかる音が響き渡る。

「その技はさっき見たわい」
「ガマ流刀殺法! 風林火斬!」

 着地から反転、素早い横薙ぎがケイマンの首筋を狙う。

「くぁッ」

 ギイッン!

 またしても剥き出しの腕で防御した箇所から金属音が響き渡る。

「あの腕、何か仕込んでやがるな」

 訝しんだシャマンのつぶやきが聞こえたのか、一瞬背を見せたウシツノに向けてケイマンがその両腕を大きく振ると、シャコンッ、と音がしてなんと両の肘から刀身が突き出てきた。

「野郎、両腕に刀を仕込んでやがった! 避けろウシツノ」
「ッ!」

 ウシツノの視界にその白刃が煌めいた。
 素早い斬撃がウシツノの背中に突き立つ。

 キィィン!

 今度は高い金属音がしてケイマンの白刃が弾かれた。

「なに!」

 ウシツノの背にはしっかりと背負い袋が固定されていた。
 白刃はそれを切り裂き、そして中に入っていた青い金属製の箱に当たり弾かれたのだ。
 袋の中にあるその箱にケイマンは一瞬目を奪われた。

「ガマ流刀殺法! 剣坤一滴けんこんいってき!」

 ウシツノの伸び行く下段突きに対し、なんとケイマンはトカゲ族特有の太い尾を振り〈自来也〉を地面に叩き落とす。

「落としたな! その首いただく」

 ケイマンの勝利宣言と取れる一言と共にウシツノに白刃が振り下ろされた。
 しかし、ウシツノにはもう一振り剣があった。
 箱と同様、しっかりと背に負っていたレイピアが。

「ハヤブサ流剣法一の秘剣! 撃墜ベイルアウトォ!」
「なッ!」

 タイランのレイピアを抜きながら、下から突き上げるようにケイマンの胴へ体当たりをかます。
 足の浮いたケイマンごと、自身も跳び上がり空中へ。
 そして地面に叩きつけようと、レイピアを上段から振りぬく。

「グフッ」

 斬撃は防御しつつも、背中から落ちたケイマンは息が止まり暫く起き上がれずに悶絶した。

「おい、そこまでだ! お前たちそこを動くんじゃない」

 するとようやく騒ぎを聞きつけた騎士の一団が、通りの向こうからやって来るのが目についた。

「チャンスだ! おい、ウシツノ、レッキス! ずらかるぞ」

 刀を拾ったウシツノと、折れた棍を投げ捨てたレッキスが、シャマンとクルペオの元に走り寄る。

「巡回の騎士団だ。そこの衛兵たちのようにビビって口出ししないなんて奴らじゃねえ。レッキス」
「あいよ! みんなこっちへ」

 レッキスの案内で四人は路地裏へと逃げ込む。
 騎士の一団が到着した時には路面に倒れ伏すケイマンのみが取り残されていた。

「あ、あなたは」

 隊長らしき騎士はケイマンの事を見知っていたようだ。
 身勝手で残忍。
 その老人が地に倒れ呆然としている様を見て、これは下手に触れん方が良いと判断した。
 部下に逃げた者の捜索を命じ、特にケイマンに対しては声をかけることもしない。
 彼を知る者としては賢明な判断であったろう。

 しかし、もしここで声をかけていれば、この後ハイランドに起こる災いを、あるいは回避できたかもしれない。

「……よもや…………連敗、かよ」

 地面から空を見上げるケイマン。
 だがその目に映るのは赤い鳥と水虎将軍の忘れ形見。

「老いたな、ワシも……」

 そう言いつつ、手に持つを握りしめる。
 それは切り裂いたウシツノの背負い袋に入っていた青い小箱。
 とても軽く、とても固い、青く輝く箱がケイマンの手に握りしめられている。

 それに気付かぬまま、ウシツノたちも、騎士の一団も、すでに通りから姿を消してしまっていた。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

ランキング参加中! 応援いただけると嬉しいです。
にほんブログ村 小説ブログ オリジナル小説へ にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ Web小説ランキング ファンタジー・SF小説ランキング

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!