【第27話】白姫と黒姫

 シオリのセーラー服と、レイのスーツはきれいに畳んで置かれていた。
 寝ている間に様子を見に、誰かがこの部屋に入ったのだろう。
 シオリは少し恥ずかしかったが、心遣いはうれしかった。
 水と手ぬぐいで体を拭いてから身支度を整える。
 少し薄汚れたセーラー服をもう一度着るのは少し抵抗があったが、今は仕方がない。
 レイのスーツもなんとか乾いていたようだ。
 でも一晩の部屋干しで濡れたスーツが乾くとは思えない。
 もしかしたら、カエルさんたちが火に当てて乾かしてくれたのかもしれない。
 そんなスーツを身に着けていくレイのことを、シオリは見るとはなしに見ていた。

「あ、あの、シオリさん。そんなにジロジロ見ないでください」
「は! ご、ごめんなさい」

(レイさんって、一緒に寝て思ったけど、ちょっとエッチな体してるんだなあ)

 レイは眉をひそめながら、ぼぉっと自分を見つめるシオリのことを見つめ返す。

(いや、スーツ姿がエロいんだ。なんとなく)

「シオリさん、どうかしました?」
「わ! な、なんでもないです。ご、ごめんなさい」
「?」

 慌てたシオリは部屋を出て行ってしまった。

「シオリさん、顔が赤かったけど、もしかして風邪かな」

 レイは小首を傾げながら着替えを終えて後に続いた。

 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 アカメはお湯を沸かしながら二人の事を笑顔で迎えた。

「おはようございます、シオリさん。それから、え、と」
「レイさんです」

 シオリがアカメにレイを紹介する。

「レイさん、お加減はいかがですか?」
「は、はい。だ、大丈夫です」
「それはよかった。今、お茶を淹れましょう」

 アカメとシオリとレイ、三人が熱いお茶を飲んでいると、扉が開きウシツノとヌマーカ、そしてタイランが入ってきた。

「ごくろうさまです。外はどうですか?」

 アカメがヌマーカに尋ねる。

「ひどく降ってきおった」
「そうですか」

 アカメは新しく茶葉を淹れなおし、三人にお茶を勧める。

「かたじけない」

 タイランが湯呑にくちばしをつけて飲もうとするが、お茶が熱くて飲めないでいる。
 そんな姿が妙におかしくて、シオリとレイは不思議な気分になった。

「さて、これからどうする?」

 ウシツノがアカメを促す。

「そうですね。昨夜はあまり話ができませんでしたからね。まずは情報の共有から始めましょう」

 そう切り出し、アカメは昨日の出来事を話し始めた。
 白角の舞台に倒れていたシオリのこと。
 そのシオリを白姫と呼んで連れ去ろうとした、金髪黒衣の魔女のこと。

「オーヤと名乗っていました」
「ああ、あれ名前だったのか」
「ウシツノ殿はなんだと思っていたのですか」
「いや、呪文かなんかだとばっかり。しかし、白姫ねえ。そんなこと言ってたか?」
「最初に現れた時にシオリさんのことをそう呼んでいました。まあニンゲン語でしたからね」

 そして白い剣のこと。
 魔女が地すべりに飲み込まれたこと。
 アマンがカザロの村へ偵察へ向かったことを話した。

「なるほどのう。白姫、ねえ」

 ヌマーカがあごをさすりながらシオリのことをじっと見つめる。

「そちらが白姫ならもう一方ひとかたは黒姫と呼ばれとったぞ」

 そう言ってヌマーカはシオリの隣に座るレイのことを指し示す。

「黒姫?」
「ふむ。モロク王はその黒姫と呼ばれとるお嬢さんを連れて村へやってきおった。しかし目的はわからぬのう」
「シオリさんが目的ではないかと思っています。その場合、我々を襲った魔女もモロク王の手の者となりますがね」

 アカメの回答にウシツノも頷く。

「そうだな。あの魔女がモロク王と手を組んでいるのは間違いない。そのような発言もあったしな」
「しかし白姫に黒姫か。この娘たちに一体どんな秘密があるというのやら」

 アカメは逐一シオリとレイに会話の内容を通訳している。
 自分たちがそう呼ばれることに思い当たる節はなさそうで、二人とも不安の色を見せている。

「タイラン殿。あなたはなぜ今この地においでになったのですか」

 ウシツノはそれまで黙って話し合いを聞いていたタイランに質問の矛先を変えてみた。
 タイランはじっと湯呑を見つめながら沈黙している。
 お茶は半分ほどに減っていた。

「タイラン殿」

 もう一度、ウシツノがタイランに詰め寄った。
 その時だった。

 カタカタカタッ!

 洞窟内に繋げておいた鳴子板が、周辺に不審者が近づいていることを告げた。
 ヌマーカとウシツノはすぐさま立ち上がり部屋を飛び出す。
 そのあとをアカメが追い、シオリとレイも顔を見合ってから後に続いた。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」先行掲載、鋭意連載中、「ノベルアッププラス」には467話(更新停止)まで掲載されています。

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