【第113話】上陸! 不死の軍団

「やれやれ、この部屋に定例会以外で訪れることになるとはな」
「今、何時ですかな」
「そろそろ四明の刻ですかな。夜明けまであと一刻半でしょうか」
「まだ暗いですのお」

 その部屋は月に一度、五商星が集まり会議を開く部屋だった。
 そこに五商星のうち三人、古狸族ムジナのホンド・パーファ、魚人族サハギンのゴンズイ・テーション、犬狼族ウルフマンのシーズー・ライブが集まっていた。

「我ら三人だけか? 呼び出した本人はどこにおる」

 その時、部屋の大扉が開き変色竜カメレオン族のウサンバラが入室してきた。

「やあやあ皆さん、夜分のご足労痛み入ります」

 三人ともが苦い顔をする。
 ウサンバラが盗賊ギルドと繋がっている以上、不意の招集にも答えないわけにはいかない。
 口惜しいがこの街でギルドと事を構えるのは得策ではないからだ。
 だが、それならばここにいるべき者がひとり、欠けているようだが。

「急な招集だ。納得いく理由があるのだろうな?」
「ええ、もちろん」
「だが、まだひとり来ていませんよ」
「ご婦人ならお見えになりません」

 ウサンバラの返答に三人の心がざわつく。

「実は大変申し上げにくいのですが、ヒガ・エンジ殿のお屋敷が今夜半、何者かによる襲撃に遭いましてね、現在連絡が途絶えております」
「な、なんだと!」
「目下、街中の衛兵を緊急招集し、現場に向かわせる支度を整えているところです」

 そういうウサンバラの目が不気味に笑っているのをホンド・パーファは見逃さなかった。

(遅すぎる。今更衛兵を招集しているだと? いや、何よりも我らを事前に呼び集めていたことといい……こいつめ)

 訝しんだのはホンドだけではない。
 ゴンズイもシーズーも同様である。

(白々しい奴め。だがヒガ殿が粛清された原因はなんだ? 先の定例会議に何かがあったのか?)
(これは明らかに見せしめ。我らをも押さえつけようというギルドの魂胆……が、しかし)

「五商星の屋敷が襲われるとは大胆不敵な蛮行。されど今は急ぎ衛兵を向かわせ事態の収拾を図る以外にあるまい」
「左様。ホンド殿の言われる通り、犯人の詮索よりもまずは周辺住人の避難が先かと」
「この強風ですぞ。火の手が上がれば一気に延焼を巻き起こしかねない。まずは被害を最小限に……」

 三人のやり取りを聞きながらウサンバラは笑いをこらえるのに必死であった。
 この期に及んでも未だ、こいつらは我ら盗賊ギルドが怖いのだ。
 保身のためにヒガ・エンジを早々に見切ったのだ。
 だがそれも仕方ないでしょう。
 この街は実質盗賊ギルドのもの。
 それは未来永劫揺るぎのないものなのだ。

 バタンッ!

 その時またしても部屋の大扉が開き、今度はゴンズイの部下である魚人族が飛び込んできた。

「ゴ、ゴンズイ様、大変です!」
「わかっておる、ヒガ殿の屋敷が襲撃されておるのであろう! 今対策を立てておるゆえ……」
「そ、そうではありません! 敵襲ですよッ」
「敵襲? だからそれは」

 あまりに錯乱しているその魚人族に全員が注目する。
 ウサンバラも例外ではない。

「どうしたのだ? 落ち着いて報告せよ」
「は、はい! たったいまですが、このマラガの街にト、トカゲ族とカエル族の軍隊が、押し寄せておりますッ」

 一同、一瞬頭が回らない空白の時を覚えた。
 ややあってゴンズイが部下に再度同じ報告をするよう命令するも、内容は聞き間違えのないものだった。
 トカゲ族とカエル族の混成部隊が姿を現したのだ。

「な、なんだと! か、数は?」

 魚人族の部下はいまだ推定の域は出ないと前置きしつつ、

「数は十万をくだりません! そいつらが突如として、街の中に現れたのです!」
「ど、どういうことだ? 船ではないのか? 沖合でなく、すでに街中にいるというのか?」

 ホンドはウサンバラを盗み見た。
 だがウサンバラの表情も驚愕の色を隠しきれていない。

(奴にとっても予想外の出来事なのか)

「と、とにかく、そ奴らを止めるんだ」
「それが……信じがたいことなのですが」

 部下は一泊呼吸を入れると絶望に近い言葉を紡ぎだした。

「奴らを殺せないのです! 奴らは……不死身の軍団です!」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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