【第114話】暗闇(1)

 ゆっくりと、私は目を開いた。

 まぶたを開くとそこは相変わらずの暗闇の世界。

 光を表すものが何ひとつ存在しない世界。

 とても狭く、身動きもままならない。

 そこは縦も横も、上も下も感じられない世界。

 そこに私は今日もひとりで閉じ込められていた。

 立っているのか、寝そべっているのか、それすらもわからない。

 私はひとり、この暗く狭い世界の中で、光が差すのを待っている。

 暗い……。

 怖い……。

 ……寂しい。

 誰も私を助けてくれない。

 誰も私のそばにいてくれない。

 誰でもいい、私のそばにいて……。

 でも誰でもいいわけじゃない……。

 あれからどれぐらい時が過ぎたのだろう。

 何日か? 何ヶ月か? ひょっとして、何分か?

 あれはすべて本当の出来事?

 夢だったら、どんなにいいか。

 悪夢なら、いくら怖くてもかまわない。

 ああ、暗い。

 どうして私は黒いスーツなんて着てしまったのだろう。

 どうして私は白い服を着ていなかったのだろう。

 白い服を選んでいれば、この暗闇の世界も少しは明るくなったかもしれないのに。

 白い服を選んでいれば、私が白いお姫様になっていたかもしれないのに。

 白い服を選んでいれば、優しいカエルが私を起こしてくれたかもしれないのに。

 白い服を選んでいれば。

 白い服を選んでいれば……。

 だんだん眠たくなってきた。

 この世界にいると眠たくてしようがない。

 狭いけれど、暗いけれど、とてもフカフカしてあたたかい。

 眠くなる。

 眠りたい。

 もう寝ます。

 おやすみなさい…………。

 ガタッ

 ねえ、今、少し、揺れた?

 ここはどこなのかな。

 ギコ、ギコッ

 ねえ、今、少し、音がした?

 呼んでいるのかな。

 ねえ。

 ねえ……。

 たぶんだけど、もうすぐ私、起きなくちゃいけないような気がする。

 でも、それまでもう少しだけ、眠らせてください。

 起きたくはないのです。

 だから、できれば、起こさないでください。

 起こすなら、私に優しくしてください。

 私に優しくしてくれないのなら……。

 そうでないのなら……。

 どうか殺して。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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