
「よくわからないんだが、その、なんだ? 木の枝の上に? このお嬢ちゃんが絡まってたのか? その、全裸で」
ハンターはミナミを指差しながら疑問を口にする。
「ん~、絡まってたというか、太い枝の先にミナミが素っ裸で? ぶら下がってたというか」
「あれは木に生っていたと言うべきじゃな。ミナミはヌードを晒しておったゆえ、まるで果実のようであったわ」
「正確には複雑に絡み合った枝や蔦によって、ミナミは裸体のまま吊られていたと言うべきだがな」
「でも裸は裸だったんよ」
「うむ、裸での」
「裸であった」
「ん~もぉっ! 声大きい! 私の名前付きでハダカハダカ言うなァ」
レッキスとクルペオとウィペットよりも大きな声で、ミナミは自身の裸談議に抗議した。
酒場中の視線がミナミに集中する。
「あ」
再度顔を真っ赤にしたミナミはうつむいてパフェをつつく作業に戻る。
「まあ、そんなわけでね、私らは裸のミナミを木から降ろしたんよ」
「助けて、それで保護したわけか」
なるほどと頷くハンターにレッキスは首を振る。
「いや、ちゃうねん。おなかすいててん」
「?」
「お金なくて数日まともに食べてなかったから……だって、人間が木に生るなんて思わへんやん? こりゃ、マジに果実なんやないかと」
「は?」
「そうなの酷いんだよ聞いて! こいつら私のことをどうやって食べようかってこの後ケンカし始めたんだよッ」
ミナミの訴えにハンターも呆れ顔になる。
「お前ら……獣と同じか」
慌ててレッキスが弁明する。
「いやいや、私は洗えば生のままでもいいって言ったんよ。ブルーベリージャムとか塗ってさ。そしたらクルペオが」
「大きな鍋で茹でるべきだと言ったまでじゃ。スープも出汁が効いて旨そうだと。だがひどいのはウィペットであろう」
「オレは神官ゆえ刃物を持てぬ。よって丸焼きがいいと言ったまでだ。ケツから串を刺してな。それより料理好きのメインクーンが」
「あの猫娘、茹でるより油を塗ってじっくり炒める方がメシのオカズになるって言ったんよ」
「お前ら本当にヒデエな……それを本人の前で話し合ってたのかよ」
「まあ最終的にシャマンの意見が通って刺身にしようと……」
さしものハンターも頭を抱える。
「お嬢ちゃん、よく今こいつらと一緒にいられるな」
「そうだよね……」
「いや~、あの頃は飢えで私らもどうかしてたんよ。にゃっはっは」
「その間私ずっと両手足をまとめて縛られて獣みたいに吊るされてたけどね」
大笑いするレッキスをジト目で見ながらミナミが毒づく。
「いやまったく、無事でよかったのう」
「クルペオ他人事!」
ミナミの文句にクルペオまで笑い出す。
「まあでもね、あの時は私、みんなが何しゃべってるのか全然わからなかったから」
ミナミの発言にハンターは意外そうだった。
「そうなのか? 今は東方語を普通にしゃべってるじゃないか」
「あれはびっくりしたんよぉ。シャマンが包丁持ってミナミに近づいていったら突然」
「変身したんじゃよ」
「変身?」
ハンターがミナミを見る。
「いや、さすがに命の危険を感じたのね。これはシャレにならないと。そしたらなんか地面からこの剣がにょきにょきって生えてきて」
そういってミナミは机に立てかけてあった自身の大剣を見る。
「で、なんか自然に、私変身できるって思ったら転身姫神って声が出て」
そうしてミナミは金姫として覚醒したのだと語った。
そのとき身体全体がスッキリとし、まるで生まれ変わったような感覚があった。
一瞬にしてこの世界の言葉も理解できるようになり、自分がこの世界で生きていくために最適化されたのだと自覚した。
そして目の前で突然神々しい姿に変わった食材を目の当たりにして、レッキスら五人はすぐに理解した。
「ああ、これ食べちゃいけないやつだ、ってね」
「そこかよ!」
「あの時、みんなすっごいガッカリした目で私のこと見てたよね……」
「にゃははは」
「で、結局このお嬢ちゃんは何者なんだ?」
ハンターはミナミをじっと見ながら尋ねた。
変身するニンゲン族なんて聞いたこともなかった。
「ミナミを連れて帰ったうちらはその足で依頼人のスイフト爺さんの家に行ったんよ」
「一応学者なのでな、なにかわからぬかと」
「それでかろうじて姫神という存在が知れたんだけど、あまり詳しいことはわからないんよね」
「調べてみると言ったきり、あのご老からの連絡もないしのう」
「まあ、強いし、からかうと面白いし、一緒にいよかってなったんよ」
「お気楽だなあ、お前らは」
そこまで話したところで酒場の入り口から新たな客がどやどやと入ってきた。
ほとんどが砂海ハンターの同業者たちだ。
「おっと、オレのお仲間が到着だ。と、シャマンもいるみてえだぜ」
確かにシャマンとメインクーンも入店してきたのが見える。
「じゃな。面白い話だったぜ! お嬢ちゃん、こいつらに愛想尽きたらオレんとこに来な。こいつらよりは、まともだぜ」
そういって席を立つショウジョウのハンターと入れ替わりにシャマンとメインクーンが席に着いた。
着くなりウェイトレスに酒を注文し、そして大きく嘆息する。
そのまま何かを考えこんでいるようだった。
いつもやかましいこの二人がなかなか話そうとしないので、レッキスは自分から話を振ることにした。
「それでそれで、緑砂の結晶、いくらで売れたんよ?」
届けられた酒を一気にあおり、即座にお代わりを注文したシャマンは、机の上にドカッと大きめのズタ袋を放り出した。
「おお! すごい量やんか」
嬉々としてレッキスがズタ袋の口を開き中を覗き込む。
そのままの姿勢で動かない。
ミナミが訝しんでいると、ようやくレッキスが顔を上げ、口を開く。
「あの、シャマン? なにこれ」
「見ての通りだ」
「え? え? なに? 売れなかったの?」
レッキスが袋をさかさまにすると、中から大量の緑砂の結晶がこぼれ出てきた。
これを換金しにドワーフの隊商の元へ行っていたはずではないのか。
机の上にこんもりと小山を作った結晶がむなしく光り輝いている。
「ああ、売れなかった。オレらだけじゃねえ。周りのハンター全部だ。ドワーフ連中、今月からしばらくは結晶を買い取ることはできねえとよ」
シャマンの顔は不機嫌で赤く染まり、レッキスの顔は財布の中身を思い出して青くなっていた。






