【第195話】ティータイム

 暖かいミルクティーにバターと塩を淹れたスーティーチャイがカップに注がれる。
 目の前に差し出されたカップを手に取り、タイランはそっとくちばしをつけてみる。
 熱くてなかなか飲めないでいるのはいつものことだが、実はタイランがお茶好きなのをアカメはこの旅で知ったのだ。
 黙っていれば何杯でもおかわりすることだろう。
 アカメもそっとカップのお茶を一口すする。

「おや」

 なるほどこれは旨い。
 塩味の効いたややクリーミーな味わいが病みつきになりそうだ。

「うりゃぁっ」
「たぁっ」

 ガギンッ!
 キィン! ギギッン!

 アカメとタイランが座るテーブルのそばで、ウシツノとこの集落の若き頭領、ケンタウロスのベルジャンが刃を交わしていた。
 実力は互角。
 パワーは同程度だが、機動力はベルジャン、敏捷性はウシツノといった具合か。
 ベルジャンの重たい槍とウシツノの重たい刀が交差し続けている。
 アカメはその様子に、

「よく飽きもせず毎日同じことを繰り返しますね」

 とくさすと、

「お前とて毎日本を読んでいるではないか」

 そうタイランに指摘された。

「知識は反復が重要です。二度三度と読むことで理解がより深まります」
「それは剣術も同じだよ」
「ええ、わかってますよ。ちょっとした嫌味です」

 タイランが鼻で笑う。
 なんてことはない。
 アカメは単にやきもちを妬いているにすぎないのだ。
 シオリとハクニーだけでなく、ウシツノとベルジャンもまた馬の合う友を見出したのが面白くないのだろう。
 仕方なくタイランは別の話題を振ってやることにした。

「ところでアカメ。シオリのことなのだがな」
「なんでしょう」
「突然倒れたときは何事かと思ったが、だいぶ元気を取り戻している様子。だが原因は何だったと考える?」
「疲労……と考えるのが一番だと思いますよ」
「しかし白姫の力は癒しの能力であろう?」
「たしかにそうですが……」

 アカメがカップに残ったスーティーチャイを飲み干す。

「ふぅ。シオリさんはですね、異世界から来たわけです。故に我々の世界に対して免疫を持たない可能性があります」
「免疫?」
「ええ。私たちにしたら大して影響のないウィルスでも、それに対する免疫を持たない異世界人には致命傷になりかねない」
「ちょっと待て。ではなにか? 我らにとっては単なる風邪であっても、シオリにとっては命に係わるというのか?」
「風邪は万病のもとですが、まあそこまで大げさにはならないと思います。なんせ姫神として覚醒したという事は、この世界に対して最適化された存在のはずですからね」

 一瞬にしてこの世界の言葉を操るようになった時のことをアカメは指しているのだろう。
 それなら徐々に免疫力も上がるはずだ。

「姫神として覚醒しなければ、命の保障はなかったと?」
「それは、たらればの話になります。実際シオリさんは覚醒したのですし、姫神ではない異世界人を私たちは知りません」
「そこは気に病む必要はないという事か」
「ええ。ですのでやはり単に疲労がかさんだと捉えるべきでしょう」
「そうか」

 ならアユミも大丈夫だな。
 タイランがそっと胸の内で、赤い髪の少女をおもんばかった事はアカメにはわからない。

「シオリさんは若いですからね。みるみる回復もしていますよ」
「お前やウシツノとてあの娘とそう変わらんだろう」
「五つは上ですよ。タイランさんこそ?」
「十以上は上だ」

 それ以上は聞くな、と言わんばかりに新たに注がれたお茶にくちばしをつける。

「ふふ」

 アカメはなんだか可笑しくて、自分も、とお茶のおかわりを所望した。

「おう、アカメ! たまにはお前も剣術をしてみたらどうだ」

 そこへ汗をかいたウシツノとベルジャンが稽古を終えて席に着いた。

「ウシツノ殿。今さら剣を嗜んだとて、あなたにはかないませんからね。私は知識量で対抗しますよ」
「いやたしかに! ウシツノは強い! このオレと互角にやり合う者などこの国にはそうはいないぞ」
「そうなのか、ベルジャン? それは自信になるな」

 ウシツノとベルジャンがこうまで意気投合するとは。
 あらくれた友情というものが理解できないアカメには不思議でならなかった。

「あ、兄さま。もう稽古は終わり?」

 そこへ今度はベルジャンの妹ハクニーとシオリが連れ添って現れた。

「シオリ殿。もう外へ出ても平気なのか?」

 ウシツノが慌ててシオリのそばへ駆け寄る。

「うん。歩き回るぐらいならもう平気」
「そうか。しかし姫神の力は使いすぎに注意しなくてはな。倒れるほど疲れるとわかった以上無理はさせられぬぞ」
「でも、少しずつ使いこなせるようになってる気がするんだよ。きっとレベルアップしてるんだと思う」
「レベルアップ? まあなんにしてもやりすぎはいかんぞ」
「毎日のように稽古に明け暮れる方のセリフとは思えませんね」
「何か言ったかアカメ?」
「いいえ、なんにも」
「ふふ」

 しばらくぶりに見たアカメとウシツノのやり取りに、自然とシオリの顔に笑みがこぼれる。
 暖かな日差しの中、席へ着いたシオリとハクニーにもスーティーチャイが注がれた。

 ところで読者諸氏には疑問に感じられるかもしれないが、ケンタウロス族とは上半身がヒト、下半身が馬の種族である。
 当然彼らは椅子に座るという習慣がない。
 今この時もテーブルにはついているが着席している訳ではなく、そこにじっと立っている訳である。
 もちろん外からの客を出迎えるために常備されている椅子に他の面々は着席している。
 そのためこのお茶の席は想像するに、いささか奇妙な光景を作り出しているのである。

「ところでケンタウロスの若き頭領よ」

 タイランが改まってベルジャンに話の矛先を向ける。

「そろそろ何故にハイランド王室と事を構えることになったのか、お教え願えぬであろうか」
「赤い騎士タイラン殿。あなたは世界中の紛争における調停役、クァックジャード騎士団の方でしたな」
「まあ、な」

 命令を破り、シオリを保護する側に着いたタイランが、今どのような立場に置かれているかはタイラン自身も知らない。
 知らない以上それを知るまでは自身の信念に基づき行動したまでのこと。
 胸を張って騎士を名乗るつもりでいる。

「よろしい。あなた方は我々の命の恩人でもある。我らケンタウロス族の重大な秘密をお教えすることとしよう」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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