集落の入り口に四人の来訪者が座り込んでいた。
猿人族のシャマン、犬狼族のウィペット、狐仙族のクルペオ、そしてニンゲンの女盗賊ギワラ。
その四人を囲むように屈強なケンタウロス族の戦士が七人、武器を構え油断なく監視を続けている。
「なあ、武器を下ろしてくれねえか。オレたちは争いに来たわけじゃねえんだ」
軽く両手を上げたまま、シャマンが周囲の戦士をほだそうとしていた。
「お前たちのリーダーと話がしたい。オレたちはもう友達なんだぜ」
「誰が友達だと?」
そこへベルジャンがやってきた。
ハクニーとシオリ、ウシツノ、アカメ、タイランも同行している。
「おう、大将! やっと会えたな」
ニカっと笑いながらシャマンは自らの額を指し示す。
そこには横一文字に走る傷跡が残っていた。
「お前さんに裂かれた額の傷だ。ようやく塞がったんだぜ。お前はどうだ? オレが傷つけた後ろ足……」
シャマンがベルジャンの後ろ足を覗き込む。
「おや」
だがそこに彼の言うような傷跡はなかった。
「傷はすでにない。全て癒された」
チラリとベルジャンがシオリを見る。
その視線の意味には気付けないシャマンたちだったが、後方に控えるそのシオリ一行には興味を抱いた。
「ははっ。ギワラ、お前の言った通りだな。カエル族だ」
コクン、と頷くギワラだったが、カエル族は一匹だと思っていた為いささか不服そうである。
「まさかカエル族が靴を履いているとは考えが及びませんでした」
アカメの足元を見て若干悔しそうな表情をしている。
相変わらず革靴を履くアカメは今後も変わることはないだろう。
「何をしに来た?」
ベルジャンの詰問にシャマンが向き合う。
「誤解を解きてえ」
「我らのか?」
「この国の全部だ」
忌々しそうにシャマンが吐き捨てる。
「オレたちは利用されただけだ。〈箱〉が何かなんて知らねえし、誰とも敵対するつもりもねえ。それなのに王家から殺し屋まで来やがったッ」
「……」
「だがな、たとえ王家だろうが黙って首を差し出すほど、オレたちはデキちゃいねえ。そこでな、奴らに仕返しをしてやりてえと思ってるんだ」
「我らケンタウロス族とハイランドには〈槍の誓い〉という盟約があるのを知らぬか」
「知らねえ。そうか……盟約、ねえ……」
シャマンがギワラを振り返り、そしてベルジャンにまた向き合う。
「お前らもハイランドによって処刑されたって聞いてるけどなぁ」
「ッ…………」
一瞬だがベルジャンの鼻息が荒くなった。
「オレたち仲良くなれねえか?」
まっすぐ睨みつけてくるベルジャンに対し、シャマンはそれ以上は口をつぐみ反応を待った。
値踏みするような目線をまっすぐ受け止める。
それは結構な長い沈黙であった。
「…………」
「……」
一族の命と誇りを預かる者の定めだろう。
ベルジャンの長い沈黙は、多くの葛藤をその場にいる者たちに知らしめた。
さすがに耐えきれなくなったシャマンは腰にぶら下げていた酒壺の栓を抜きひと口あおった。
が、とうに酒は空っぽで、一滴もシャマンの口に零れてくることはない。
その様がベルジャンの止まった時を動かす。
「どうした? 緊張しすぎて、ここへ来るまでに飲み干してしまったのか」
ベルジャンは先の戦いでシャマンをそれなりに評価していた。
彼は自分と同様、まず仲間のことを第一に考えるタイプに思えたからだ。
仲間を気遣いながら戦う故に、額に傷をつけることもできた。
それらが思い過ごしかと疑った。
(貴様は酒におぼれる程度の男なのか)
そうではなかった。
「いや、なに……オレはまだ飲んじゃいねえんだがな……」
何故だか照れ臭そうに鼻の頭を掻きながら答える。
「墓が五つもあったからよ……最後に一杯ぐらいやりてえんじゃねかと、な。ちと足りなかったようだ」
カッ、とベルジャンの目が見開いた。
蒼狼渓谷に倒れたケンタウロス族の墓がまさしく五つなのだ。
「入るがいい。酒を振舞ってやろう」
「お、おう!」
ベルジャンが集落の中へと取って返すと、戦士たちも来訪者に向けていた武器を下ろした。
シャマンが仲間を振り返りニカっと満面の笑みをこぼす。
「信じられません。よく打ち解けられたものです」
ギワラは表情を変えずにそうつぶやく。
「まあなんというか、相手の懐に飛び込むのが意外とうまいんじゃよ。うちのリーダーはの」
クルペオの言葉にウィペットも頷いている。
「そういうものなのですか。では今後はそれも計算に入れて行動するようにしましょう」
あくまでクールなギワラの発言にウィペットとクルペオは顔を見合わせた。
この娘もなかなかに理解しがたい性格のようで先が思いやられた。






