「それで、お前たちはどうしたいのだ?」
ふるまわれた馬乳酒をひとしきり飲んだ後だった。
まだ体調が万全ではないシオリは、ハクニーに伴われてあてがわれた天幕へ戻っている。
下戸だというタイランと、脳が酩酊するのを嫌うアカメは同席しているものの酒は飲まずにいた。
同様に正義の鉄槌神ムーダンに仕えるウィペットも信仰を理由に酒を飲まない。
女盗賊ギワラも勧められた酒に手を出しはしなかった。
結果、酒席ではあるが半数が酒を飲まない状況であり、残りの半数が尋常でない量を飲んでいた。
その中でも一番の酒豪は狐仙族のクルペオであった。
だいぶ赤ら顔のシャマン、ベルジャン、ウシツノに比べて、いまだ顔色ひとつ変えずに杯を重ねている。
そして冒頭のベルジャンからの問いかけである。
「さっきも言ったがオレたちは利用されただけだ。そして今は命を狙われてる。ハイランド王家からな」
「冤罪を晴らしたいのですか?」
「それだけじゃ気が済まねえ」
アカメの指摘にシャマンが首を振る。
「オレたちを嵌めたファントムって野郎に一泡ふかしてえ」
「どうやって」
「本物の〈箱〉を手に入れて交渉しようかと思ったんだが……」
「それは駄目だ」
ベルジャンが真っ向から拒否する。
「だろうな」
シャマンも今や理解していた。
ケンタウロス族が〈パンドゥラの箱〉を長い年月護ってきたこと。
そしてそれを今更私欲のために持ち出したりしないであろうことを。
「だがまあ、ケンタウロス族の誤解が解けただけでもよしとするかね」
「我らもそうだが、ケンタウロス族とてハイランド王家に目を付けられているのであろう?」
ウィペットの返しに今度はベルジャンが唸る。
「ハイランドと戦争する気か?」
もちろんベルジャンにもそれが無謀であることはわかっていた。
兵力の差は圧倒的で、しかも今ハイランドは姫神である桃姫の影響力が如実に表れてきている。
彼女の力は無限に兵力を増産することができる。
無機物に生命を宿らせることができるからだ。
「今戦ったところで勝ち目などない。いくらハイランドが昔より落ち込んだとしてもだ」
絞り出すようなベルジャンの声に誰からも反論はない。
それは至極真っ当な、現実を見据えた意見であるからだ。
「ではこちら側が優位に立てる交渉をするほかありませんね」
静かにアカメがそう切り出す。
「どうすればいい?」
「ベルジャン殿の決断に寄りますが、〈パンドゥラの箱〉とやらを交渉材料に使うのが適当かと」
「王家に献上し、ご機嫌を窺うのか……」
「あるいは奇跡の力をかさに着て、脅しに使うもよろしいかと」
自嘲気味な笑みをたたえながら力なく言うベルジャンに対し、アカメはしれっと強硬策を打ち出した。
「はっ! 本の虫の気弱なカエル族かと見くびってたが、なかなかどうしてお前さん、案外肝が据わってそうだな」
「それはどうも」
シャマンが愉快そうにアカメを評する。
「すまん。口は悪いが悪気はないのだあの男は。どうか聞き流してほしい」
ウィペットがアカメに丁寧に頭を下げた。
「別に私は気にしませんよ。それにどちらかというと私もシャマン殿と同じ、〈箱〉を交渉材料に使うべき派ですからね」
「これも時代の流れか」
ベルジャンの表情から曇りが消えていく。
「今のオレは族長代理の立場だ。父である族長に伺いを立てねばならぬが、箱を、パンドゥラの箱の封印を解く時が来たのかもしれぬな」
「おおっ」
「だが、その箱をどうすべきかはまだわからない。皆の知恵を貸してほしい」
一同が大きく頷いた。






