【第145話】トロピカルアルティメットマンゴーパフェ

 エスメラルダ古王国よりさらに東方、雄大なディバマンド山を越えるとそこは緑砂の砂漠に広がる浮遊石地帯である。
 大小さまざまな奇岩が宙に浮く、不思議な光景が見られる場所だ。
 その浮遊石地帯をかすめるように、南に領土を持つのが五氏族連合、通称フィフスと呼ばれる五種族の統括地域である。
 すなわち北西の猫耳族ネコマタ、北東の兎耳族バニー、東の猿人族ショウジョウ、南の狐仙族ルナール、そして西の犬狼族ウルフマンの五種族だ。
 中心地には〈聖なるシャニワール〉と呼ばれる街が拓かれている。
 街の北側は大半が砂漠に覆われているが、南側は熱帯雨林の広がる緑豊かな地であった。
 この街には政治を執り行う長老らの議事堂から、催事を執り行う社殿、商いを取り仕切る商館、旅人や冒険者を相手する宿場町としての機能まで、都市として必要な使節はほぼ備わっていた。
 当然盛り場も多く、繁盛している者もいれば、犯罪を犯す者、それを取り締まる憲兵などもいる。
 ニンゲンの統治する女権国家エスメラルダや草原の大国ハイランド、大陸の玄関口である盗賊都市マラガに比べれば規模は小さいが、熱気や活気といったものは決してひけを取らない。

 ミナミとその仲間たちはこのフィフスの中心地、聖なるシャニワールを本拠地としていた。
 浮遊石の嵐ガム・デ・ガレでのジンユイ狩りからすでにひと月が経過していた。
 あの日、予期せぬジンユイの大群と、巨大なヴァルフィッシュとの邂逅で気を大きくした一行は、この街に戻ると以前の質素な生活に比べ羽振りがよくなっていた。
 なんといってもジンユイの体内から採取できる〈緑砂の結晶〉が予想以上に手に入ったことが大きい。
 この結晶を北に住むドワーフ連中に売ることが、この地に住む彼らのような砂海ハンターの主な収入源であるからだ。
 ミナミたちは連日のように酒場に入り浸っていた。
 今日もミナミとレッキス、ウィペットにクルペオの姿が見える。
 呆れたことに真っ昼間から酒をあおって上機嫌だ。

「ミナミったらお酒よわっちいよね~。すぐ赤くなる」

 二杯目の麦酒エールに口をつけたばかりのミナミだが、すでに顔が赤い。

「レッキスだって私と大して変わんないじゃん。クルペオは飲んでも全然変わんないけど」
「私はどれだけ飲んでも酔わないのじゃ」

 そう言ってクルペオはジョッキに注がれたエールを水のように体内に流し込む。

「それでは飲む意味がないな。まったく酒が可哀そうだ」

 追加を注文しているクルペオに対しウィペットが辛辣にツッこむ。

「ウィペットは飲んでないみたいだね」
「これでも神官の身なのでな。酒と刃物を持つことは禁じられている」

 じゃあ料理とかどうするんだろう。
 ミナミはそう思ったが、政治と宗教の話はしたくなかったので黙っていることにした。

「ところで今日はシャマンとメインクーンが来てないね」

 巨漢の戦士シャマンと、盗賊少女のメインクーンがいないので、少々テーブルが寂しく感じられた。

「あの二人なら結晶を売るために交易所へ行っているはずだ」
「ああ、ドワーフの隊商キャラバンが来るの、今日だっけ」

 ウィペットの言にレッキスが納得する。
 ひと月に一度、数十人からなるドワーフの隊商がこの街を訪れる。
 当然目的はこの街を根城にするハンターから〈緑砂の結晶〉を買い取るためだ。
 基本的にドワーフたちの方から買取に出向き、そしてこの街で生活に必要な物資も購入し帰路に着く。
 そのためハンターたちはその日に備えて結晶を採取し、街の商店は大量購入の顧客をもてなす用意に勤しむのである。
 この機を逃すとひと月の収入は大幅に途絶えてしまうため、彼らにとってとても大事な日であった。

「にしてもシャマンとメインクーン、遅すぎるんよ。そろそろ財布の中の酒代を補充したいんだけどね」

 木製の古いテーブルに突っ伏し、空のジョッキを口にくわえながら、レッキスがうんうんと唸った。
 そこを通りかかった顔なじみのハンターが声をかけてきた。

「よう、お前ら! 最近羽振りがいいみたいだな」

 ミナミが見上げると、そこにシャマンと同じショウジョウのハンターが立っていたが、名前までは覚えてない。

「まあねぇ」
「すでにデキあがってんのか。大したご身分だな」

 少なからず言葉に嫉妬がこもっている。

「今月は上々の売り上げが期待できるのでな」

 クルペオの言葉にレッキスがニヤける。

「姫神サマサマなんよ」

 その言葉にハンターがミナミの方を向いた。

「この嬢ちゃんがか? なんだかすごい奴だって噂は聞いたが、一体どこで拾ったんだ」
「……プッ! クスクス! 聞きたい? 教えてあげよっか? あれは半年ぐらい前のこと……」

 笑いながら話し始めたレッキスに、ミナミは慌てて飛び掛かると口を両手で塞いでしまった。

「わぁーわぁーわぁー! なに話し始めてんのよ! だめだってだめだって」
「モガフガ」
「おいおい、どうしたってんだよ? なんでだめなんだ?」
「だってえ」
「プハッ! ゼェゼェ。残念! ミナミがダメだってさ……っんぐ」

 必死にレッキスの口を封じるミナミだが、そんな態度を見せられてはショウジョウのハンターも気になって引き下がれない。

「そりゃねえぜ。余計に気になるじゃねえか。なんでダメなんだよ」
「恥ずかしいんだもん……」
「なんだそりゃ?」

 ミナミの顔が赤いのはお酒のせいかあるいは。

「だったらお礼に全員一杯ずつ奢るからよ。聞かせろよ」
「ウェイトレスちゃーん! もう一杯おかわり」
「私もじゃ」
「……こぶ茶をひとつ」
「決まりだな」

 すかさず注文した一行を見てハンターがニヤっとした。

「ちょっとちょっとぉ、なんでよみんな」

 ミナミの抗議も聞き入れられず、みんなそろって追加オーダーを楽しんだ。
 こうなってしまってはもう断れそうにもない。

「もうっ……じゃあ、トロピカルアルティメットマンゴーパフェで」
「うぇっ」

 バニーのウェイトレスにミナミはこの店で一番高いスィーツをオーダーしてやった。
 ハンターがこっそり財布の中身を確認しているのをミナミは見逃さない。

「あれは半年前だったかな。春の匂いが間近に迫ったころだったんよね」

 お行儀悪く両足をテーブルに乗せたまま、レッキスが話し始めた。

 この街のすぐそばに、太古の姿をそのまま残す森があった。
 聖域として扱われてはいるが、その深い森の奥には古い朽ちた遺跡があるだけで、特に注目を集めることはない場所だった。
 その遺跡にシャマンたちが訪れたのは簡単な調査依頼を請け負ったためだ。
 そのころ結晶狩りがうまくいかず、明日をしのぐ程度の金にも困っていたシャマンたちは、結晶狩り以外の仕事を請け負うことで急場をしのいでいた。
 実入りとしてははした金にしかならないが、贅沢を言える状況ではなかった。

「今と大違いだな」

 ハンターの感想に相槌を入れてレッキスは続けた。

「依頼人は変人としてこの街では有名なスイフト爺さんだったんよ」
「ああ、あのルナール族の爺さんか」
「彼のご老はこの地の歴史を調べている学者なのじゃが」
「まあ成果が見られなくってね。あの日も遺跡に行ってガラクタを拾い集めてくる。そんな依頼だったんよ」

 クルペオの補足を挟みつつ、やってきた追加のエールをあおってレッキスが笑い出す。
 ミナミはうつむいたままトロピカルアルティメットマンゴーパフェをつついている。

「そこでさ、この子に会ったんよ。ね、ミナミ」
「……そうね」
「遺跡でか?」
「ううん。違う。そばの大きな木」
「木?」

 ハンターが怪訝な顔をする。

「そう。その大きな木の枝にね、素っ裸のミナミが絡まっててね、私らに助けてって。ね」

 今度こそミナミは酒ではなく、恥ずかしさから顔を真っ赤にして、パフェをつつくのであった。

「どういう事だ、それ?」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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