「姫神の処理場、とはどういう意味だ?」
タイランが聞き返す。
シオリには刺激の強い表現に聞こえるが、ここはあえてそのまま聞いてみた。
ウシツノはさりげなくシオリを盗み見る。
ハクニーがそっと肩に手を添えてやっていた。
「そのままの意味デシ。姫神は大量のマナを体内に保有しているデシ。それを搾り取るデシよ。長い長い時間をかけて」
「どれぐらい?」
「次の世代の姫神が降臨するぐらいデシね」
「つ、つぎ!」
驚いてウシツノが声を上げた。
姫神は数百年に一度現れる。
「お前、いくつなんだ……」
「四百を越えた辺りからもうわからないデシ。てかウシツノ、レデイに年齢聞くなデシ」
「あ、ああ、すまない」
思わず素直に謝ってしまった。
「ていうか、やっぱりお前もニンゲンだったんだよな?」
「当たり前デシ。これは〈旧きモノ〉に呑み込まれた結果の姿デシ」
「呑み込まれた?」
バンはシオリの方を向く。
「姫神にはそれぞれ〈旧きモノ〉と言われる怪物のチカラが宿るデシ。あんたにも憑いているデシょ?」
シオリには大いなる大天使ルシフェルが宿っているらしい。
「けど扱いは非常に難しいデシ。一歩間違えればたやすく暴走する……デシ」
シオリの脳裏にレイとマユミが、タイランの脳裏にアユミの姿がちらつく。
「それを抑えるのに必要なのがマナデシ」
「そのマナというエネルギー? それをあなたは抽出されてしまった」
アカメの問いにバンがうなずく。
「バンはマナを全て搾り取られる前に脱出できたデシ。けど元の姿を維持するだけのマナはもうないデシ」
「そのマナを搾り取るための施設がゴルゴダ」
「じゃあミナミもそのうちバンみたいにちんちくりんのキツネになっちゃうん?」
レッキスが心配そうに仲間の方を向く。
金姫ミナミは九尾の狐ナイン・テイルと夜叉鬼ヤクシニー、二つの力を宿していた。
「だがそれには何百年という長い年月を要するようじゃが」
「私らそんなに長生きできないにゃん」
「だからスグにでも助けに行くんだ! なあ、あんた。ゴルゴダから逃げてきたんだろ? だったら侵入する方法も知ってるんじゃないのか?」
シャマンの問いかけにバンは申し訳なさそうに首を横に振った。
「妹が……」
「ん?」
「妹が助けてくれたデシ。バンにはゴルゴダへ行く方法まではわからないデシ」
「妹がいるのか? でもお前は異世界人……」
「だから、妹も姫神だったんデシよ。バンは白姫、妹のユウは黒姫だったデシ」
「黒姫……」
ますますシオリの脳裏にレイの姿が鮮明になる。
「ユウがバンを助けてくれたデシ。二人で逃げたけど、はぐれて、それっきりデシ」
はじめて見せるバンの寂しげな姿。
「姉妹そろって異世界から転移してきたのか」
「そういうパターンもあるんだにゃ」
「あるんデシよ」
「もしかしたら、今もどこかでバンさんのことを探してるかもしれないですよね」
シオリのその言葉にバンはしばらくの沈黙で応えた。
やがて、
「癒しのチカラを持つ白姫。あんたには少し、期待できるかもしれないデシね」
「わたしが?」
「白姫に宿る力は〈光〉に係わるものが多いらしいデシ。その中でも最高レベルの治癒能力を持つあんたなら、この世界を真に救えるかもしれない、デシ」
そうは言われてもシオリにはわからないし自信もない。
何も答えることはできなかった。
「バン殿、あなたは何故いまだにゴルゴダを目指すのです? ようやく逃げ出し、今日まで生き延びたのでしょう?」
話の軌道修正は常にウィペットの役目だ。
「ああ、そうか。シュテインの遺言でハイランドに匿われてたのか」
シャマンが納得顔でしきりにうなずく。
「もしかしたら、ユウがどこかでバンの助けを待っているかもしれない。だとしたらゴルゴダを目指すしか手掛かりはないデシ」
「でも場所がわからないんだろう?」
「軍隊が必要とも言ってたんよ」
「神と戦うためのか? 姫神でも敵わないんだろう?」
「それは……そうデシ……」
そこで沈黙が流れた。
ゴルゴダとは?
姫神とは?
バンとは?
そして世界を動かす三柱神の存在とは?
いくつかわかったことがあるにはあるが、ではどうするのか。
途方もない話ばかりで今後の具体策が一向に出てこなかった。
「みんな、疲れているのだろう。特に城へ潜入した者たちはな」
タイランの言葉で全員忘れていた疲労がどっと押し寄せてきた。
「各自休息をとるといい。オレが外を見張る」
そう言ってタイランは部屋を出て行ってしまった。
「ありがてえ。今はご厚意に甘えさせてもらうぜ」
シャマンはバックパックを枕代わりに壁を向いて寝ころんだ。
ほどなくして寝息が聞こえてくる。
「私も失礼しますよ」
アカメは手ぶらで部屋を出た。
少しひとりになって考えをまとめたかった。
今までの情報を精査する必要がある。
そうして各々がじっくりと休息をとることにした。
夜明けまでまだまだ時間がある。
戦士には休息が必要だ。
「結局、オレたちの敵は誰なんだ……オレたち以外、すべてが敵のようだ」
壁にもたれたウシツノが愛刀を引き抜く。
父の形見の〈自来也〉は、あれだけ斬っても刃こぼれひとつなかった。
そしてもう一振り、傍らに置いた妖刀〈果心居士〉。
あの剣聖グランド・ケイマンの刀。
「父も剣聖も亜人戦争で翻弄された身。その亜人戦争自体が姫神に翻弄されたモノだった?」
ウシツノにはわからない。
知識もなければ知恵もない。
だからずっと考えるのはアカメに頼ってきた。
「このままでは、剣を握る力がブレてしまいそうだ」
そっと刀の刃に額を当てる。
ひんやりとした心地よさが目を覚ましてくれそうな気がした。
「オレは、何のために剣を振るえばいいのか……」
目を閉じたウシツノは、バンとシオリの姿も部屋からいなくなっていることに気付かぬままだった。






