【第275話】浮遊要塞ゴルゴダ

「さあ、知っていることをすべて、話していただきましょう」

 アカメがバンに詰め寄る。
 暗い部屋は広々として、乏しい灯りでは四隅にわだかまる闇を払拭できない。
 中央に佇んだ白い小動物を囲むように各々が腰を落ち着けていた。
 入口や窓辺では油断なく、あるいは疲れた身体を壁にもたせて、あるいは身を乗り出して聞きかじろうともする。

「なにが知りたいデシか?」

 そんな周囲を眺めながらバンが尋ねる。

 バンを長年探していたのはドクターダンテである。
 彼は自身の家が没落する原因となった聖賢王シュテインの狂気について知りたかった。
 父は元公爵ウート・アダイである。
 アダイ公爵と聖賢王シュテインは良き友でもあった。
 その聖賢王は晩年狂気に憑りつかれ、亜人戦争という未曽有の大戦を引き起こし、戦死した。
 跡を継いだブロッソ王によりアダイ家も取り潰され、ダンテはすべてを失った。
 何故、聖賢王は狂ったのか。
 いまさらそれを知ったところで失われた時代は戻らない。
 だが知らずに朽ちていくのを黙って受け入れられるほど、彼はデキた性格ではなかった。
 だから唯一の手掛かりであるバンという要人を探す手伝いをオロシ伯爵に頼んだのだ。
 父曰く、バンという知己を得てからのシュテインは、変わり果てた、と。

 とはいえ最初に質問を繰り出したのはシャマンだった。

「ゴルゴダだ! まさか知っている奴に会えるなんて。とにかくゴルゴダについて教えてくれ」

 直情型のこの猿人族の声が最も大きかった。

「うん! 知りたいんよッ」
「頼むにゃ」

 レッキスとメインクーンも同調する。
 もちろんウィペットとクルペオも同様だ。
 この五人はそれを知りたいためだけに、この地で騒動に巻き込まれたのだ。
 なんとしても口を割らせるという気迫が感じられた。

「浮遊要塞ゴルゴダデシか」

 バンはあっさりそう答えた。

「え? ふ、浮遊?」
「要塞だって!」
「地名ではなかったか」

 浮遊要塞。
 思っていなかった響きに思わず戸惑う。

「それはどこにあるんだ?」

 シャマンの問いにバンは首を横に振る。

「わからないデシ。あれは常に移動してるデシ」
「……そ、それじゃ」
「どうやってそこに行けばいいにゃ?」

 当然の問いだがバンの答えは冷徹であった。

「行ってどうするデシ? あんたたちに出来ることなどないデシよ」
「なんだとォ」
「ちょっと、ずいぶんな言い方じゃんよ」

 気色ばむ亜人パーティだが、それを気にすることもなく、バンはダンテに向きを変える。

「事実デシ。あの聖賢王シュテインでさえ、辿り着くことすらできなかったデシから」

 ダンテの視線が鋭くなる。

「ま、待ってください! どういうことです? それはもしかして、亜人戦争の事を言っているのですか?」

 たまらずアカメが割って入る。
 バンは「そうデシ」と、静かに肯定する。

「シュテインは侵略したくて亜人戦争を起こしたんじゃないデシ。ゴルゴダを目指していたんデシ」
「な、なんで軍隊なんかで行くんだよ。だから亜人たちも戦争おっぱじめちまったんじゃねえのか?」

 シャマンの意見はもっともに聞こえる。

「ゴルゴダを落とすのに必要だったんデシ。それで当時最強だったハイランドに依頼したんデシよ」
「なんだって?」
「シュテインは、バンのお願いを聞いて軍を派遣してくれたデシ」

 ということは、あの亜人戦争勃発の原因は、今、目の前にいるこの白い小動物ということになる。

「敵は神デシ。この世界を護る三柱の神。結局シュテインでもまるで届かなかったデシが」
「神とは?」

 ウィペットが聞く。
 彼は正義の鉄槌神ムーダンの神官戦士だ。
 敵が神と聞いて落ち着いてなどいられない。

「一般には知られていないデシ。教団を運営するような神とは神格が遥かに違うデシから」
「……」
「なんという神だ?」

 珍しくタイランが質問を投げ掛ける。

「〈力〉、〈智慧〉、そして〈心〉の三柱デシ」
「聞いたことないな」
「ですねえ」

 博学のウィペットにアカメまでもが首をかしげる。
 確かに一般に知れ渡っている神々ではないようだ。

「力のズァ、と言えばピンとくるデシか?」
「ズァだって!」
「百獣の蛮神ズァのことか?」

 シャマンたちの顔色が変わる。
 ミナミを連れ去ったのは紛れもなくズァであった。

「なるほど、つながりますね」

 顎に手を当てアカメが頷く。
 ゴルゴダにいるズァ、シュテインが目指したゴルゴダ、そのシュテインを斬り捨てたズァ。

「では亜人戦争は聖賢王シュテインがゴルゴダを目指し、神であるズァがそれを阻止した戦争、ということになりますか」

 アカメの言葉に誰も応えられない。
 そのような事実を聞いたことは今まで皆無であったから。

「そうなんデシよ……ズズ、ズ」

 そんな周囲の空気感など気にすることもなく、バンは目の前に置かれたホットミルクに舌鼓を打つ。
 そのホットミルクを淹れてやったウシツノがバンに尋ねる。

「そのゴルゴダというのは何のためにあるんだ?」
「そうなんよ! なんでそこにミナミがさらわれないといけないんよ」

 バンはレッキスに向きを変える。

「そのミナミというのは金姫デシたか?」

 レッキスがコク、とうなずく。

「あんた言ったよね? ミナミの心がもつかどうか、って。どういう意味なんよ?」
「浮遊要塞ゴルゴダとは姫神の処理場なんデシ」
「えっ?」
「処理場……」

 驚くレッキス。
 そしてシオリの表情も硬くなる。

「そう、あそこは姫神を処理する施設。最終的に姫神となった娘たちが放り込まれる場所。バンはそこから逃げてきたんデシよ」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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