【第66話】シオリ、その奇跡と引き換えに

 私、新沼シオリと片岡リノは幼稚園からの幼馴染でした。
 私は彼女の事をリノと呼び、彼女は私の名前、シオリをもじって「オシリ」と呼んでいた。

 あ、「シ」にアクセントを付けてよね!

「エジプト神話の神様みたいだよ」

 リノは私にそう言いました。
 オシリス神というのがいるんだって。
 古代エジプトで国民にとっても支持された王様なんだって。
 リノはそういった話、特に神秘的なものが好きな子でした。
 リノにはいろんなことを教えてもらったっけ。
 トランプを使った占いやタロットカード、世界中のオカルト話やパワースポットとか。
 近場で行けそうな不思議スポットにはよく二人で行ったりもしました。
 私は特別オカルトが好きだったわけではないけれど、楽しそうにしているリノを見るのは大好きでした。
 二人で一緒にいる時間は本当に最高で、私にとってそれはキラキラした宝物のようでした。
 だからいつまでも、私は彼女の後をついて行こうって決めていたんだ。

 それなのに……。

 二人で同じ高校に入学して三か月がたったころ、リノが交通事故に遭いました。
 梅雨の長雨が数日続いていたあの日、コンビニの帰り道に横断歩道で車に轢かれました。
 煽り運転を受けて動揺した運転手の過失という事でした。
 煽っていた車はとっととその場からいなくなり、リノは動揺する運転手と共に長時間、雨に打たれていたそうです。
 その事故は別に報道されるようなこともなく、たぶんほとんどの人にとっては知らない出来事として過ぎ去っていきました。

 でも当事者はそうもいきません。

 あの事故でリノは足が不自由になってしまいました。
 自分で立って歩くこともできなくなり、車イス生活を余儀なくされました。
 あんなにいつも明るかったリノから笑顔が消えてしまいました。
 私は何とか彼女を元気づけたくて、今まで以上にたくさん話しかけたし、たくさんお散歩にも連れ出しました。
 でも、彼女は私にこう言ったんです。

「無理しなくていいよ」

 無理なんてしていませんでした。

「私はオシリが楽しそうにしてる顔を見るのが好きだったんだから」

 私だってそうでした。
 リノの笑顔が大好きだったんです。

「だから、そんなにツライ顔をしてるオシリを見ると、悲しくなっちゃうんだ」

 ………………。

 私はリノの前で笑っていなかったのです。
 私はリノの笑顔がないと笑えなかったんです。

 その日を境に、リノに会わない日がなんとなく増えていき、そういう日はだんだんと増えていきました。
 そうしていつの間にか一年が経過しました。
 その間リノの事を考えない日はありませんでした。
 彼女の足は今も不自由です。
 私は少しでも治る見込みのある話を聞いたら必ず調べてまわりました。
 毎日いろんなものにお祈りもしました。

 でも結局何も変わらないままでした……。

 そしてあの日、私が覚えている一番最後の日、近所の神社でリノを見かけました。
 リノはひとりで懸命に、立って歩き出そうと努力していました。
 私は声をかけることができず、遠目にそれを見守ることしかできませんでした。
 リノが立ち上がれず、車イスごとひっくりかえってしまった時はびっくりしました。
 私は内心で慌てましたが、でも、なぜだか駆け寄ることはしませんでした。

 だって、リノはもう大丈夫だと思えたからなんです。

 わからないけど、でももう足は「治っている」って思えたんです。

 ほら、見て。
 リノが立ち上がるよ。
 ほらほら、見て。
 リノが歩き出した。

 その光景を見れた瞬間、私はまばゆい光に包まれた気がしました。
 視界が白くぼやけて何も見えなかったんです。
 体が浮き上がるような不思議な感覚もありました。
 脳まで溶けちゃいそう軽やかで甘美な快感もありました。

 そこから先の記憶は唐突です。
 あまりの気持ちよさに眠ってしまったんだと思います。
 ぼんやりと意識が復活した時に、おかしな話声が聞こえてきました。 
 いえ、話しているように聞こえちゃったんです。

「ゲコゲコ、ゲコゲッコ」
「ゲーコ」
「ゲゲゲゲ! ゲッコゲ」
「ゲコッコゲコココ」
「ゲェーッ」

 まるでカエルの鳴き声ですよね。
 でも私はちゃんと会話をしているんだって思いました。
 でもとにかく耳元でうるさいなあって思ったことは覚えています。
 なので私はゆっくりと目を開けてみました。

 そうしたら、そこから今の大冒険が始まっちゃったんです。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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