【第61話】死者の軍団

「ここにいる……」

 レイは起き上がると黒の剣を力いっぱい地面に叩き付けた。
 土砂が巻き上がり、続けて地面が全方位に向けてうねりを上げた。
 まるで波打つような地面の揺れに立っているのがやっとだ。
 だが真の驚きはその後だった。

 ぼこっ、ぼこっ、っと地面のあちらこちらから、たくさんの腕が飛び出てきた。
 いや、腕だけではない。
 それらは次第に頭、胴体、そして全身を現しだした。

「お、おぉ! お前たち……」

 ゲイリートとボイドモリは息をのんだ。
 それはこの地で亡くなり、埋葬されたばかりのトカゲの兵士たちであった。
 多くが暴走した紅姫の襲来により、戦い果てた兵たちだった。
 牙や爪で切り裂かれた傷や、猛火で焼かれた跡など痛々しい姿はそのまま、そして不気味なのが声ひとつ、うめき声すら上げない事である。

「な、なんだ、こいつらは?」

 ウシツノたちの動揺が可笑しくてオーヤが笑った。

「レイの姫神魔法、〈黄泉乃来訪者リボーンゾンビー〉よ。真新しい死体を下僕として甦らせるの。死を統べる黒姫らしい術技マギよね」
「し、死体を甦らせるだって……」
死人ゾンビーという事でしょうか。となるとやっぱり死なないんでしょうね」

 アカメが後ずさりしてタイランの背に隠れた。

「かもしれん。だが細切れにしてやればなにもできまい」

 タイランとウシツノも武器を構えた。
 だが数が多い。
 ざっと見てもトカゲのゾンビーは百体以上はいそうだ。さらに……。

「な、なんとッ」
「モ、モロク王ォ」

 ゲイリートとボイドモリの目の前に横たわっていた、死んだばかりの炎天将軍モロク王が起き上がったのだ。

「モロク王ッ」

 ウシツノもそれを見た。
 大剣を手に立ち上がったモロク王の姿を。
 黒姫の背後に立ち、静かに剣を構える。

「お、王よ!」
「モロク王ッ」

 ゲイリートとボイドモリの呼びかけにも、だがモロク王は沈黙したままだ。
 歓喜のボイドモリは一転、暗い気分に引き戻された。

「王も、やはりゾンビーなのか」
「王……」

 モロク王ですらも、黒姫の忠実な、物言わぬ下僕として甦っただけだった。

「クッ、だがモロク王ッ」

 それでもウシツノはモロク王の前へと進み出て刀を構えた。

「貴様は父の、村の皆の仇だ! ゾンビーだろうと構わん。甦ったのなら、オレの手でまたすぐあの世へぶっ飛ばしてやるッ」

 刀を強く握りしめると今にも斬りかかろうとした。
 だがその勢いをオーヤが止める。
 意地の悪い声に含み笑いまで添えて。

「あなた、誰か忘れてるんじゃないの?」
「なに?」
「誰の仇ですって? それってもしかして、ここにいるんではないかしら?」
「まさか……」

 その言葉の意味を察し、アカメは動揺した。
 そしてすぐ背後にイヤな気配を感じ振り向くと、思った通り、彼らもこちらに向けて集まってこようとしていた。
 ゆっくりと、足を引きずりながら、カエル族の二人にとってはよくよく見知った面々が、各々痛々しい姿となって。

「そんなッ」

 それはトカゲの兵士たち同様、黄泉の国より帰ってきたカエル族、この村に山と積まれていた彼らだった。

 打ち捨てられていたカエル族の死体までもが、黒姫の下僕として、ゾンビーとなったのだ。
 そのカエル族の先頭を歩いてくるのはひと際大きな体のカエル族だった。
 頭を半分砕かれているようにも見えるが、見間違えるはずもない。
 血でどす黒く変色した、藍色の着流しを着たその大きなカエル族は、かつての大戦で炎天将軍モロクと並び称された英雄。
 偉大なる水虎将軍と謳われた、この村の長老にしてウシツノの父である、大クラン・ウェル将軍であった。

「お、親父……」

 見るも無残な父親の、変わり果てたその姿にウシツノは戦意をくじかれてしまった。
 今にも膝から崩れ落ちそうだった。
 シオリを中心に固まったウシツノ、アカメ、タイランは、蘇った死者の軍団によって、周囲をみるみる包囲されてしまった。
 哀しみと恐怖がないまぜとなり、彼らは動くに動けなかった。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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