【第60話】白姫vs黒姫

「さあ、ようやく始まるのよ! 姫神による生き残りを賭けた、大戦争が」

 興奮を抑えられずオーヤが高笑いする。
 その瞳は恐ろしげな金色に輝いている。

 シオリとレイ、二人の剣がぶつかった。
 白い光と、黒い闇の波動が、辺り一面に吹き荒れる。
 お互い手心を加えているようには見えない。
 まさに渾身の一撃を繰り出している。
 重そうな黒い斬撃をシオリは華麗にいなし、美しく鋭い白い刺突をレイは剣を盾に受け止める。
 剣術と呼べる型などない。
 剣に導かれるままに、まるで舞を舞っているかのように、激しく、流麗に打ちかわす。
 二人の剣がぶつかるたびに空気が激しく震動した。
 衝突は拮抗しているように見えたが、だがそれも、徐々にではあるがシオリがレイを押し始めた。
 交互に攻防を繰り返していたはずが、やがてレイは二回に一回、三回に一回と反撃の回数が減り始める。
 やがて防戦一方に追い込まれ始めた。

「姫神に覚醒したのがほんの数日早かった分、白姫に軍配が上がりそうね」
「……ということは、二人とも姫神としての力はまだまだ上がるという事ですか?」

 アカメはオーヤの解説に質問を投げかけてみた。

「当然でしょう。この程度で伝説になんてなるものですか」

 アカメは喉の奥が閉まって声を出せなかった。
 魔女はそうは言うが、あの若返り活力みなぎっていたモロク王ですら手も足も出なかった姫神である。
 それを「この程度」呼ばわりされるとは。

 その時シオリの攻撃がついにレイを打ち負かした。
 剣を弾かれたレイが地面に膝を着いていた。

「やったかッ」

 思わず快哉を上げたウシツノだったがその瞬間、

「ウォゥッ!」

 ウシツノの声をかき消すようにレイが一声叫んだ。
 身の毛のよだつ重苦しい低音だった。
 黒い風がレイを中心に四方に吹き渡る。
 全員の身体をその風が吹き抜けていくとその瞬間、身体が硬直し動けなくなってしまった。
 動かねばと思っても四肢が言うことを聞かない。

「〈麻痺咆哮パラライズロア〉。黒姫の叫び声は相手の神経を恐怖で麻痺させてしまう」

 その通りだった。
 あきらかに恐怖の感情が心の中に芽生えていて、全身が凍り付いたように動けなくなっていた。
 レイの頭頂部に巻かれた赤い茨が動き出した。
 茨は無限に伸びながら自在に蠢いて、硬直しているシオリに巻き付くと全身を雁字搦がんじがらめにする。
 ウシツノやアカメたちはシオリの援護に向かいたいと思うのだが、硬直したままの身体を引き攣らせることしかできなかった。
 茨はからめ捕ったシオリを頭上高くに持ち上げた。
 振り回し、地面に叩きつけようとしていた。
 しかし一条の光が走ると茨は断たれ、シオリは容易く自由を得て着地した。

「え、どうしてッ! 麻痺して動けないはず……」

 レイの驚きをよそに、シオリは剣を掲げて呪文を唱える。

悪態快癒レストアステート

 空から光の粉が舞い散る。
 それを浴びたウシツノたちは心から恐怖が取り除かれ、身体の麻痺も癒えた。

「これは、シオリさんが初めて姫神に覚醒した時と同じ」
「ああ! あの時も食人花マンイーターの花粉に侵されたオレ達を一瞬で癒してくれた」

 ウシツノたちだけではない。
 同様に恐怖で麻痺していたゲイリートとボイドモリも舞い散る光の粉を浴びて回復していた。

「白姫のチカラか。しかしなぜ白姫だけは麻痺を受けなかったのだ?」

 ゲイリートの疑問に答えたのはオーヤだった。

「白姫の固有スキル〈光の祝福〉よ。彼女はあらゆる状態異常を無効化してしまう」
「そうかッ」

 アカメには思い当たる節があった。

「だからあなたの眩術げんじゅつもシオリさんには効かなかったのですね」

 初めての魔女との邂逅かいこう時、ただの縄を蛇に錯覚させてウシツノとアカメを封じたが、シオリにはその影響は見られなかった。

「恐怖を操り敵を束縛する黒姫では、それを無効化する白姫と相性が悪いようだな」

 タイランも戦いの趨勢すうせいが見えてきたようだった。

「ではこの勝負、オレたちの勝ちか!」
「あはははは」

 ウシツノの喝采を遮るようにオーヤが笑い出した。

「そう単純に決まるかしら? レイ!」

 オーヤがレイに呼びかける。

「ここにはたぁくさん転がっているわよぉ。あなたの可愛い下僕たちがね。わかるでしょ」

 レイの脳裏に次の一手が浮かんできた。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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