
「洞窟の中には誰もおりません! もぬけの殻です」
アメの洞窟の外で待機していたボイドモリに、部下からの報告が届く。
「一足遅かったか」
苦虫をかみつぶした顔で、ボイドモリは手に持つ小石を握りつぶした。
「中には備蓄庫と思しき部屋があり、休憩を取った痕跡はありましたが、それがいつ頃まで居たのかまではわかりませんでした」
「ボイドモリ様。この洞窟から東へ続く獣道に複数人の足跡が残っております。おそらく……」
「東には何がある?」
「いくつもの険しい峠があります。が、その先に大きな町などはないはずです」
「追いますか?」
「当然だ! このまま手ぶらで帰れるか! 東の峠だ。奴らを追うぞ」
雨は落ち着いているが、ぬかるんだ峠道だ。
ニンゲンの娘を連れての行軍には限界がある。
すぐに追いつけるだろう。
「いいな、黒姫は生かして捕えろ。他は皆殺しで構わん!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最初の峠を越えた辺りですでにアカメとインバブラ、それにレイの三人は体力の限界を感じていた。
濡れた木々とぬかるんだ地面により、足が重たく感じられる。
ましてレイはスーツにパンプスである。
すでに足先は泥だらけであった。
「大丈夫か? きついかもしれんがもう少しだ。頑張ってくれ」
先頭を歩くウシツノが振り返り、アカメとレイに声をかける。
だがインバブラを加えた3人は顔を上げることもできず、黙々と無言で歩き続ける。
(ったく。アカメが訳してくれねばレイ殿には伝わらんというのに)
やれやれといった表情をしながらウシツノは前を向いた。
「頑張ってレイさん。ウシツノさんがもう少しだって」
まだ元気のあるシオリがレイを励ます。
レイは弱々しく微笑んだだけだった。
その隣でアカメは不思議そうにシオリを見ていた。
(ウシツノ殿がもう少しと言ったのをシオリさんはわかったのでしょうか?)
シオリはレイに一方的に話しかけていた。
その言葉は相変わらずニホン語だ。
(いや、ニュアンスを感じ取った、というところでしょうかね。だとしたら勘のいい方だ)
最後尾をタイランとヌマーカが努めていた。
「ヌマーカ殿。目指す水仙郷というのはどれぐらいかかるのです?」
「ワシやお主でも五日はかかる」
「なるほど」
この面子では倍はかかろう。
「すんなりと行ければいいのだがな」