剛力駆動腕甲パワードアームを振りかざす大男の勢いに乗って、周囲のごろつきどもも雪崩を打ったように襲いかかってきた。
「調子こいてんじゃないんよ!」
ズガン! ズドン! バキン!
レッキスが群がる数人をハイキック、ミドルキック、後ろ回し蹴りで一蹴する。
「バニー、鳩尾に蹴りを入れてやるな。診療所で吐かれては困る」
「あんたも呑気だねドクター」
またひとり殴り飛ばしながらレッキスがダンテに呆れる。
「くそう、コイツらやっぱり強えぞッ」
「せめてこの女をッ」
ごろつきのひとりが寝台で眠るギワラに刃物を振り下ろす。
「私の患者に手を出すな」
それを見たダンテが隅に立て掛けていた杖をとると、そのごろつきの腕、そして脳天に鋭い打撃を与え叩きのめしてしまった。
「ヒュウッ! やるじゃんかドクター」
「おいッ医者先生よう、ギルドに逆らう気かッ」
レッキスの称賛とは逆にごろつきのひとりがダンテに凄む。
「ドクターと呼べ。退院するまでは私の患者だ。何人も手を出すことは許さん」
その凄みを涼し気な顔で軽くいなす。
「オレも攻撃を受けているのだがな、ドクター」
同じ入院患者であるウィペットが別の相手を投げ飛ばしつつ苦笑する。
「それだけ戦えれば問題ない。退院したまえ」
「フッ、世話になった」
「よかったねウィペット」
「それにしてもドクター。先程の太刀筋、とても素人には見えなかった。正規に剣術を学ばれたか?」
「……」
それについては何も語らずダンテも杖を剣に見立てて構える。
こうしてギワラを守るようにダンテ、ウィペット、レッキスが立ちはだかった。
喧嘩自慢のごろつき程度では歯が立たず、先程までの威勢はどこへやら、次第に攻撃は散発的になっていく。
ドッゴォオン!
しかし反対側では大きな衝撃音が走っていた。
ギガントという大男の暴れっぷりは衰えておらず、形勢はまだまだ有利とは言えなかった。
「さすがだぜこのパワードアームはよッ」
いくつもの歯車が回転する駆動音を上げながら、ギガントが吼える。
吹っ飛ばされたシャマンは上体を壁板にめり込ませていた。
クルペオが鋭利な刃物と化した符を放つが、装甲に切り傷ひとつ付けられずに終わる。
「ウオオォオォォ!」
「チッ、なんなんだあのパワードアームってのはよ! ただの防具じゃなく、攻撃の仕掛けがあるみてえだ」
「シャマンあれを見よ! 拳を覆う手甲部分がやけに大きく膨らんでおる。そこに穴が空いておるようじゃ」
「ああ。パンチがヒットした瞬間、あの穴から何かが飛び出てきやがった。それがしこたま重い!」
大柄のシャマンが耐えられずに吹き飛ばされる程のインパクト。
「いいですよギガント! とっとと終わらせてしまいなさい!」
「ヘイッ、ジョナス様」
ギガントが腕を大きく振りかぶりパンチを繰り出す。
「おらもいっちょ! 大災害級メガ豚パンチッ!」
「そんな大振りパンチ」
立ち上がったシャマンがそのパンチを両腕でガードする。
その瞬間、またしても相手の肘部分から蒸気が噴出すると重い衝撃がシャマンを再び力いっぱい吹っ飛ばしてしまった。
「シャマンッ」
状況に気付いたレッキスたちが大男を見ると、シャマンを殴った右腕部分から先端が丸く膨らんだ棍棒が突き出ていた。
クラクラする頭を押さえながらシャマンが立ち上がる頃には、飛び出ていたクラブは魔道具内に引っ込んでしまった。
「見た! クルペオ」
「うむ」
右腕から飛び出したクラブの威力を警戒し、レッキスが大男の左側から飛び掛かる。
同時にクルペオが何枚もの符を遠間から放つ。
「グハハッ、そおれッ」
だが大男が嗤いながら左腕を突き出すと、今度は左肘から蒸気が噴出。
レッキスとクルペオに向かい白い物体が飛び出した。
「うぐっ」
「なんじゃっ」
ビシャッ、っと音がして着弾すると、白い物体が粘着性の網状に広がり二人を絡めとる。
「蜘蛛の網だ! パワードアームにはこういう機能もあるのですよ、クハハハ」
勝ち誇ったように高笑いするジョナス。
レッキスとクルペオが拘束、シャマンは意識朦朧で戦力半減。
残されたウィペットと闇医者にごろつきどもの戦意が復活し始める。
「さあ、もうここに用はありません。そいつらまとめて処分してしまいなさい」
パワードアームをガシャガシャと軋ませながら大男を中心にごろつきどもが包囲を狭める。
「おのれ」
「おっと、動くなよ犬っころ! このウサミミとキツネ耳がどうなってもいいのか?」
動こうとしたウィペットに向かい、ごろつきのひとりがレッキスとクルペオに刃物を押し当てる。
「くっ」
「ちょっ! どさくさに紛れて変なとこ触んな」
「うるせっ」
バシッと噛みつくレッキスの頬が叩かれる。
「女二人はせっかくだから生かしてやるぜ。十分楽しんだ後に奴隷堕ちのフルコースだ。いいでしょう、ジョナスさん?」
「仕方ないですねぇ。まあそれぐらいの褒美はいいでしょう。チェルシー様もお許しになるはず」
「チェルシー?」
その名を聞き逃さなかったウィペットにジョナスが「あっ」と声を出す。
「これはしまった。つい呼び慣れた方の名を出してしまいました。まあ死にゆくあなた方が気にすることではありません」
ガンッ!
ギガントがシャマンの頭を掴んで床に叩きつける。
そのまま押さえつけると手甲部分に空いた穴をシャマンの頭に照準する。
「このままクラブを発射してやる。脳みそぶちまけて派手に逝っちまいな」
右肘から蒸気が噴き出した。
「シャマンッ!」
「シャマン逃げろ」
「ぐ……うう」
唸るばかりでシャマンは動けない。
「じゃあな、サル」
「シャマァンッッッ」
カツン……。
場違いなほど小さな足音が響いた。
しかしその場にいた誰もが、現れた赤い出で立ちのその男を無視できず、全員が動きを止めてしまった。
静かにその男が問いかける。
「すまないが、ここに医者がいると聞いてきた。だがとてもそうは見えないので困惑している」
堂々とした態度に逆にごろつきどもが不安を覚え始める。
「こ、このような状況に入り込んでくるとは、あなた、何者です」
ジョナスも動揺を隠しながらその赤い男に問いただす。
その男は赤い旅人帽のつばを押し上げながら、高潔さのにじみ出る声で質問に答えた。
「私の名はタイラン。誇り高き、騎士である」






