【第111話】オークの餌

「アユミ様!」

 膝を着き嗚咽するアユミをブリアードが助け起こした。

「あたしは、大丈夫です。ブリアードさん……早く逃げないと」
「はい。裏庭に秘密の抜け穴があります。アユミ様はこの方たちを連れてお逃げください」
「ブリアードさんは?」
「わたくしはヒガ様の無事を確認せねばなりません」
「そんな! あたしだってアマンの無事を確認したいよ!」
「アマン様はどうされたのです?」
「表で、盗賊ギルドの幹部たちと戦ってる」
「なんとッ」
「お願い、あたしはアマンのところに行きたい! だからブリアードさん……」
「ぐ、ぬう……」

 ブリアードは娘たちを見た。
 みなおびえた様子で事の成り行きを見守っている。
 ネダの針によって殺された娘に覆いかぶさり泣いている者もいる。

「わかりました。彼女たちはヒガ様が危険を顧みずに救い出した者たちです。最後まで守り通すのが執事たるわたくしの務めでありましょう」
「ありがとう、ブリアードさん」

 そうと決めるとブリアードは手早く娘たちを助け起こし裏庭へと誘導を始める。
 アユミも裏庭まで護衛としてついて行った。
 
「すでに屋敷全体に火が回っているようです。しかしこれは逆に目くらましとなる」

 ブリアードに先導されて娘たちとアユミは裏庭へとたどり着いた。
 裏庭は人工の池や噴水があり、水気の多いためか今はまだそこまで火の手は回っていなかった。
 周囲には背の高い木も多く植えられていて視界もさえぎられる。
 さらに深夜であるため遠目にも見つかりにくい。
 加えて夜半から続く強風が、木々の葉を騒がしくさせていて、多少の物音さえもかき消してくれる。

「こちらです。奥の噴水にある女神の彫像が入り口です」

 女神像はヒガも信奉するエスメラルダの国教、慈愛の女神サキュラである。
 そのサキュラ神像の足元に抜け穴があり、屋敷の外へとつながっているらしい。
 女神像に近づくと、奥の暗がりから何者かの荒い息遣いが聞こえてきた。
 息遣いは複数で、どことなく凶暴な気配を醸し出している。
 暗くて気付きにくかったが、足元が赤黒く濡れており、そして周囲には血の匂いが蔓延していた。

「ブリアードさん……」
「しっ!」

 ゆっくりと、ブリアードが気配のする暗がりへとにじり寄る。
 アユミと、二十人近い娘たちは、暗闇に対峙し息を殺してその様子を見守った。
 やがてブリアードの視界に気配の全容が見えてきた。
 そこにいたのはやはりオークどもであった。
 数は五匹。
 そのうち暗がりの手前にいる二匹は足元に転がる屋敷の警護兵の死体を貪り喰っていた。
 喰われているその男を含め、警護兵の死体は三つ。
 激しい戦闘があったと推察される。
 そしてさらにその奥に三匹のオークが猛り狂っていた。
 同時に女のものであるくぐもった悲鳴、嗚咽が聞こえる。
 ブリアードは嫌な予感がしていた。
 オークに貪り喰われている警護兵は、この屋敷の主であるヒガ・エンジの護衛を任されていた者だ。
 奥のオークは三匹がかりでひとりの犠牲者を嬲っていた。
 ブリアードの視界にその全容が映し出される。
 予感は的中していた。

「ヒガ様ァッ」

 全身の毛を逆立てブリアードが半狂乱になりオークへと飛び掛かった。
 慌てて前へ出たアユミにも、三匹のオークが寄ってたかって彼の主であるヒガ・エンジを凌辱している光景が目に映った。
 この世界の身の毛もよだつ現実を味わった気がした。
 オークにとって男はエサであり、女は慰みものなのだ。
 娘たちも悲鳴を上げて身を寄り添い合う。
 ブリアードはそのおぞましい渦中へと飛び込んだ。
 雄叫びを上げてトンファーで打ち、突き、からませ、踏みつぶす。
 興奮状態のオークだったが怒りに身を任せたブリアードが全てを瞬く間に打ちのめした。
 五匹のオークは残らず頭を粉砕され絶命していた。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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