【第63話】必殺! 稲妻光線

 ウシツノは果敢にモロク王へと斬りかかった。
 相手の背丈はウシツノの倍以上ある。
 カエル族特有の膝を活かした跳躍力で肩口めがけ、渾身の袈裟斬りを浴びせてやった。

「なにッ」

 驚いたことにモロク王は防御もせず、左肩にその一撃を受けながらも同時に大剣を振るってきた。

「うおッ」

 咄嗟に身をよじって躱したが、左の腿に熱さと次いで痛みが訪れた。
 斬られたのは肉だけで骨は無事だと思ったが、傷の程度を確認している暇を与えてはくれない。
 着地したウシツノに今度はカエル族の長老が容赦ない突きを繰り出した。
 自来也を上げてその突きを弾き、勢いそのままに大クラン・ウェルの胴体を切裂く。
 覚悟を決めたとは言え、ウシツノにとってはツライ反撃だった。
 だが長老はそれらを意に介すことはなく、ウシツノの頭部に大剣を振り下ろす。
 たまらずウシツノは後方へと大きく跳び退き、一連の行動に終止符を打った。

「はぁ、はぁ」

 たったこれだけの一連ターンですでにウシツノの息が上がっていた。
 剣の技量というよりも、これは心を削る精神へのプレッシャーに寄るところが大きい。
 アカメが駆け寄りウシツノの斬られた足を確認する。
 血は流れているが両足でしっかりと立っている。
 骨までは達していないようだ。

「よ、よくあの二人の攻撃をしのぎましたね、ウシツノ殿」
「ああ。いや、やはりあれはゾンビーにすぎん。技も闘争心もない。本当のあの二人は、もっと強かった」

 肩で息をするウシツノとアカメの元にシオリとタイランも合流した。
 四人で背中合わせとなり、どんどんと数を増していくゾンビーどもに対し死角をなくす。

「とはいえ斬っても死なない、怯みもしない相手に囲まれて、どうするんです?」

 アカメの悲痛な台詞に暗い沈黙が流れた。

「撤退するぞ」
「えッ」

 タイランの提案にウシツノが軽い反抗心を燃やす。

「何か打開策でもあるのか?」

 ウシツノにはなかった。

「こいつらを止める一番の手立ては黒姫を止める事だ。それができるのはシオリしかいない」
「わたししか……」
「その覚悟は、できているか?」

 止める、とは、殺す、という事か。

 シオリは即答できなかった。
 それで答えとしては十分だった。

「よし、私が隙を作る。撤退だ」

 渋々とだがシオリとウシツノも了承した。
 言うやタイランは真っ直ぐ大クラン・ウェルへと向い突進した。

「タイランさん! 親父の相手はオレがッ」
「ゾンビーとはいえお前に父殺しはさせん! お前は仇の相手をしろ」

 モロク王はすでにウシツノの間合いの半歩外にまで接近していた。

 ギィッン!

 ウシツノの刀とモロク王の大剣が激しくぶつかった。
 ウシツノが凄まじい形相でモロク王を睨む。
 モロク王は二撃目、三撃目、と立て続けに大剣を振るうが、ウシツノは大地に足を根付かせて全てを弾き返した。
 何度目かの大剣を弾いたところでモロク王の体勢が大きくかしいだ。

「ウオオォッッッ」

 ウシツノの気迫の一撃がモロク王の肩から腹までを一気に斬りおろした。
 死して間もないモロク王の肉体は、まだ新鮮であったのか、ゾンビーとなっても大量の血を噴き出しウシツノを赤く染めた。
 タイランは相対していた大クラン・ウェルの両肩を掴むと、翼を広げ上空へと羽ばたいた。
 自身より大きな体の持ち主を空中で放り投げると、剣を抜き上から地面に向けて叩き付ける。

「ハヤブサ流剣法一の秘剣 撃墜剣ベイルアウトッ」

 上空で叩き付けられた大クラン・ウェルの巨体が地上へと落とされた。
 そこにはレイが立っていた。
 不意を突かれた格好で、レイはたまらず巨体の下敷きになった。

「今だッ」

 タイランの合図にシオリは行動順が回ってきたことを察した。

「光よ!」

 まばゆい光がシオリから発し、その光が胸前で交差した両腕に集中する。

「必殺! 稲妻光線ライトニング・レイ

 十字に交差した両腕から熱量の高い光線が照射された。
 光線は一直線に伸び、周囲のゾンビ―を焼き払う。

ボムッ」

 さらにシオリの声で光線が弾けた。
 光が無数の光球に分かれて降り注ぐと、辺り一面で連鎖爆発を起こす。
 たちまち光と爆散した土砂で周囲の視界がゼロになる。
 タイランはウシツノとアカメを抱え込むと二人を引き連れて夜空へと舞い上がった。
 シオリも光り輝く羽を広げて後に続く。
 大クラン・ウェルの巨体を押し退けて這い出したレイは、暗い空にどんどん小さくなっていくシオリの姿を見た。

「逃げるがいいわ。今はまだ、その時ではないのだから」

 隣にやって来たオーヤのつぶやきも、レイの耳には届かなかった。
 黒い夜空にシオリ達の姿が見えなくなっても、レイはただただ虚空を見上げて立ちすくむばかりだった。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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