「な、なんだったんだ……アレ」
頬を伝う汗は炎の熱気によるものだけではなかった。
アマンは広場を見渡せる家屋の屋根から全て見ていた。
手と、背中に張り付く服は、暑さによる汗の仕業だと思っている。
遠くの空を睨みつつ、静かに地面へと降り立った。
「あれもニンゲンだったのか?」
赤い炎を纏ったアイツが黒い闇を放った剣と激突し、そして東の空へと飛ばされて行ったのを見ていた。
「それともやっぱりドラゴン……」
いや、とアマンは首を振る。
少なくともドラゴンよりはニンゲンに近かったように思えた。
だがアマンの知る限り、ニンゲンに羽や尻尾は生えなかったはず。
「じゃあアイツはなんなんだよ?」
イラついたところで答えは出ない。
残念ながらアマンには情報が少なすぎた。
わかったことは炎を纏ったアイツはシオリではなかったということ。
そして巨大な闇を発する黒い剣をトカゲどもが所持しているということ。
しかしそれらの意味するところを知る術がアマンにはないということ。
「さてどうする?」
取るべき道は二つある、とアマンは思った。
ひとつは取り急ぎ、アメの洞窟へ向かいウシツノたちと合流する道。
トカゲどもが向かうかもしれないと危険を知らせる必要がある。
「でもそれはあのインバブラでも出来ることだしなぁ。となると……」
アマンは東の空へと目線を向けた。
「決ぃめた」
アマンは東へ向かい走り出した。
「近くに墜落してるんじゃぁなかろうか」
あの炎のニンゲンを追う事にした。
闇の壁とぶつかった後、吹っ飛ばされたままその辺にまだいるかもしれない。
これはすでに単なる好奇心であったかもしれない。
だが自らの好奇心を行動の原理とするアマンにとって、これは無視できるようなものでは到底なかった。
走りながらアマンは村から望めるゴズ連山の白い頂を眺めた。
アメの洞窟はあのゴズ連山にある。
ここからは北だ。
そして炎のニンゲンは東に行った。
「そうだよ。まるっきりの正反対へ行くんじゃないんだからさ。ちょっと寄り道になるだけさ」
問題ない。
すぐに合流できる。
そう思い、一目散に東へ走った。
結局、その判断が間違いであることを後になって思い知るのだが――。
そろそろ夜が明ける頃合いだ。
しかし向かう東の先からはいつまでたっても太陽が昇って来ない。
いや、空が厚い雲に覆われて、太陽が見えないのだ。
それどころか湿った風の匂いまで感じる。
「ひと雨来る。これならトカゲどもにも見つかりにくくなるぞ。ラッキーだ」
数刻前に死を覚悟したばかりだというのに、すっかりいつもの都合の良い思考力が戻ってきていた。