
「オレたちについてくるって? カレドニアへか?」
驚いたシャマンがアカメに聞き返した。
「ええ、そうです。どうぞよろしくお願いします」
「そりゃ、まあ、いいけどよ」
「おい待て、アカメ!」
勢いで了承しているシャマンを尻目に、ウシツノは慌ててアカメに詰め寄った。
「どうしてオレたちもカレドニアなんだ? シオリ殿とタイランさんを探すんじゃないのか?」
「なに言ってるんです。私たちがこの国に来た元々の目的地はハイランドの首都カレドニアだったじゃありませんか。何らおかしいことはないでしょう?」
平然と答えるアカメにますますウシツノは困惑する。
「そ、それはそうだが……だがそれはシオリ殿がいてこそであって、タイランさんも含めてまず無事を確認してだな」
「どこでどうやって確認するのです? この広い草原の国を、不案内の私たち二人で。あの二人がどこかでジッとしてくれてる訳もないでしょうし」
「だ、だから、それでどうしてカレドニアへと即答できるんだよ」
はあ、とため息をつくとアカメはまっすぐウシツノを見て話しだした。
「いいですか。想像してください。私たちにとって今、最悪なのはどういう結果ですか」
「どうって……」
一瞬ウシツノの脳裏に二人の無残な姿が思い起こされ、慌てて首を振ってその想像をかき消した。
「そうですよ。あの二人がすでに殺されていた場合です」
「アカメッ」
考えたくもないことをあっさりと口にするアカメをウシツノは非難がましく嗜める。
「想像です。この場合はもうどうすることもできません。詰みです。私たちの旅はここで終わりです」
「ぐ……」
「ですが敵も姫神の重要性をわかっていそうですので、シオリさんの命を奪うまではしないのではないかと私は想像します。となると」
「お、おう」
「次に考えうる状況は二人、あるいはシオリさんだけでも敵に捕らわれてしまった場合です。その場合の行先はどこでしょう?」
「なるほどカレドニアだな」
シャマンが納得した顔で答える。
「そうです。そしてより良い想像では、二人が無事に逃げ延びた場合。捕らわれていなければその可能性が増します。ではそんな二人が情報を得ようとしたら?」
「カレドニアへ行くのが一番じゃな」
クルペオも納得した顔で相槌を入れる。
「なので二人が無事ならやがてはカレドニアへと現れるはずです。そこ以外に私たちに共通の目的地はないのですから」
「なにか思いがけない事態になってたらどうする」
「それこそこの国の首都へ行かねば知りようがありません。なんせ思いがけないようなことなのですから、より重要な地へ行くべきです」
食い下がるウシツノにアカメはにべもない。
「カレドニアへ行けば全て上手く行くという話ではありませんよ。けど情報がなくては下手に動けません。情報を集めるにはこの国の中心である……」
「わかったもういい。お前の講釈はいつも長くなりがちなんだよ」
「そりゃあ、あなたやアマンさんが理解できるようにしようとすれば、長くもなりますよ」
「どういう意味だよ」
とにもかくにもウシツノも納得したようで、二人もカレドニアへ行くことが決まった。
「あの」
すると今度はハクニーが声を上げる。
「私も連れて行ってほしいです。カレドニアに」
「ハクニー! 何を言う」
妹の思わぬ発言にベルジャンも驚いてしまう。
「私もシオリの無事を知りたいの! ドワーフ族の元へと行ったら情報が入るのに何日もかかってしまう。そんなのは耐えられない」
「ハクニーさん。お気持ちは理解しますが、ケンタウロスであるあなたはあの国では目立ちやすい」
「なら街へは入らない! 街の外でいくらでも待つ! お願い」
「ハクニー」
なだめようとするベルジャンの声にも耳を貸さない様子にアカメは折れた。
「わかりました。街の外か中かは考えるとして、あなたにも協力していただきましょう。ですが」
「はい。危険は承知しています」
どうやらベルジャンも折れたようだ。
妹のことをよく知る兄がこれ以上は無理だと判断したのだろう。
「いいのかアカメ?」
「ええ。これもシオリさんの、ヒトを惹きつける魅力の賜物でしょう。それに彼女がいるとシオリさんも安らぐのではないかと」
ここ数日のシオリとハクニーの関係を見ての判断だった。
その他にも思うところはあるが、アカメはそこまでは口にしなかった。
「どうやらオレも覚悟が必要のようだな」
やおらベルジャンが肩から背負った袋を外し、中に手を突っ込む。
そして青い金属製の小箱を取り出すと、ウシツノとアカメに向けて差し出した。
「ベルジャン?」
「ベルジャンさん?」
「パンドゥラの箱をお前たちに預ける」
「なんだって!」
これにはこの場にいる全員が驚いた。
「どういうことですか」
さすがにアカメも戸惑いを隠せずにいる。
「お前たちに託すのがより良いと思うのだ」
「ですが」
「箱をケンタウロス族が持っていると知れた以上、奴らが本気で奪いに来たら護りきることは困難だ。我らは持っている振りをする事で注意を惹くに留める。それに」
「なんです」
「この箱も姫神の神器だ。シオリ様に託すのも、悪くない」
「……」
「千年、我らはこの箱を護った。今こそ新たな時代に賭ける時。それはお前たちなんだとオレは思った」
「ベルジャン……わかった。箱は必ず、シオリ殿に渡してみせるさ」
「ああ」
箱を手放すベルジャンからは、晴れ晴れとした、そして自信をみなぎらせた表情の覇気が戻っていた。
「態勢を整え、後顧の憂いを絶った後、我らは必ず馳せ参じる。お前たちの槍としてな!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ケンタウロスたちと別れを告げ、ウシツノとアカメ、ハクニー、そしてシャマン一行は下山し、一路ハイランドの首都カレドニアを目指した。
一行の中心を歩くハクニーの背には傷を負ったウィペットが乗せられていた。
「済まぬなハクニー。お主のようなおなごに怪我人を運ばせて。全くだらしのない男どもじゃ」
「うっ!」
クルペオの冷たい目線にシャマンが気まずそうに肩をすくめる。
「そんなことないよ! わがまま言ってついてきたんだ。役に立てて嬉しいよ」
そんなクルペオとハクニーのやり取りを見つつ、列の最後尾を歩くウシツノがアカメに対し、
「お前もしかして、怪我人を運ぶ手段に使えると思ったからハクニーの同行を許したんじゃ」
「まさか! それだけのためではありませんよ。もちろんね」
にこやかに答えるアカメにウシツノは舌を巻く。
「それだけ、ね。他にもなにかあるんだな」
アカメはそれ以上答えず、歩きながら今後の行動指針に再び没頭するのだった。






