【第248話】ステゴロ

「騎士ですって?」

 ジョナスは名乗りを上げたタイランを不振な目付きで見る。
 その目がタイランの腰にぶら下がる剣で止まった。

「クヒ、刀をぶら下げた騎士とは珍しい。ちゃんと扱えるのですか」
「へへ」
「ヒヒヒッ」

 周囲にはびこるごろつきどもも、目前の勝利で気を大きくしているのか、ひとり現れたタイランに対して嘲り、おちょくる姿勢を隠さない。

「そうだな」

 それをひとわたり眺め、赤い鳥は静かに返答する。

「ピィピィさえずるだけのヒヨコども相手に、武器を使うほどオレは大人げなくはない」

 そう言って両手で握り拳を構え挑発する。

「なんだコイツ、舐めてるなぁ」
「ザケやがって! ヤっちまエッ」

 ごろつきどもがタイランを殺めようと殺到する。

「偉そうな事をほざきながらも結局多勢で襲い掛かる。だから貴様らはヒヨコなのだ」

 タイランはそう吐き捨てると飛びかかってきた者を次々と殴り飛ばす、あるいは投げ飛ばす。
 掴み、倒し、蹴り、また殴る。

 一旦乱闘が始まれば人質もなにもない。

 レッキスのそばで戸惑っているごろつきを、飛び掛かったウィペットが殴り倒した。

「な、なんなんだコイツ!」
「この鳥、バカみてえに強えぞ」

 赤い鳥に対し次第に尻込みするごろつきども。
 それもそのはず。
 気付いたときには片手で数えられる程度の人数しか立っていなかったのだ。
 多くが床で伸びている。

「バカなッ。お前たち何をしているのですか!」
「どうした? ボスはああ言ってるぞ。来ないのか? 最後のひとりになるまで向かってきたらどうだ」
「わわっ」

 もはや立ち向かおうとする者はおらず、ゆっくりとタイランはジョナスに向かって行った。

「どいてくだせえ、ジョナス様」

 そこへ立ちはだかったのはあの大男だ。

「おお、ギガント! よし、パワードアームの力を見せてやれィ」
「へっ、テメェ鳥野郎が、そこのサルみてえにお前も潰してや……」

 バキンッ!

 何かが割れる音が響いた。

「グガッア……」

 大男の顔が苦痛で歪む。
 話の途中だが、タイランのまっすぐの蹴りが大男の右膝を正面から砕いたのだ。
 逆向きに曲がった膝でたまらずくず折れるところを下から見事なアッパーカットで顎も砕いてやる。

「なっなっ! 卑怯な! パワードアームの威力も見せずに……」
「オレも刀を抜かず素手喧嘩ステゴロなんだ。条件は一緒だろ」

 最初からそれが狙いだったのでは、とウィペットとクルペオが目を合わていた。

「がっ、がふっ……テ、テメェ」

 膝を破壊され立っていられない大男が、さらに顎を砕かれ口から血を一杯たれ流しつつタイランに右腕を突き出す。
 同時に蒸気が肘から吹き出した。

「危ない! その腕は」
「ハヤブサ流剣法二の秘剣! 乱気流タービュランス!」

 神速!

 連撃!

 不規則!

 抜刀した刃の軌道がまるで見えなかった。

 カチン……。

 気付けば大男の背中越しにタイランが刀を鞘に納めている。

 ゴトッ、ゴトゴト、と床に魔道具が落下していった。

「ッ!」
「使い慣れない刀の割にはうまく斬れたものだ」

 パワードアームの留め具が全て切り落とされていた。
 パクパクと大口を開け閉めしている大男のなんとも間の抜けた顔であろうか。

「ひぃ」
「ヤベェコイツッ」

 それを見たごろつきどもが蜘蛛の子を散らすように退散していく。

「ま、まってくれぇ」

 足を引きずりながら大男も逃げていく。
 呆れたことにジョナスなどはとっくに姿をくらませていた。

「クソッ! テメェら待ちやがれ」

 怒りの収まらないシャマンが逃げようとするひとりを掴み殴りかかる。
 その勢いで殴れば一撃で命を奪えるだろう迫力であるが、

「やめろショウジョウ。診療所ここでの殺生を私は許さんぞ」

 そう止めたダンテの一言にシャマンは唸りつつもごろつきを解放した。

「礼を言う、タイラン殿。ウシツノとアカメが言うように、ほんとに強いのだな」
「ウシツノの奴、えらい心配してたぜ。姫神の嬢ちゃんはどうした?」

 ウィペットの礼とシャマンの質問に向きつつ、タイランは外の茂みへと向かった。
 雑然とした樹木が手入れもされず軒先に荒れ放題だ。
 そこへ入り込むと、やがてぐったりとしたシオリを抱き上げて戻ってきた。
 クルペオが心配そうにシオリの顔を覗き込む。

「無事……とも言えんようじゃな」
「ネアンの老医者に指示されここへ来た。ここでなら治せると言われてな。紹介状もある」

 倒れていた寝台を元に戻し、シオリをそこに寝かせてからダンテに封筒を手渡す。
 ダンテが目を通している間、タイランはシオリの隣に横たわるギワラが気になった。

「クスリを大量に打たれたらしい。残念だが、手の施しようはないそうだ」
「この者は盗賊ギルドの関係者だったな。さっきの奴らもだ」
「ああ、たぶん何か、ヤバイことになってるな」

 そして全員の視線がいま一度ギワラに集中したときだった。

「ッ!」

 いつ目を覚ましていたのか、起き上がったシオリがギワラの髪を優しく撫でていた。

「シオリ」

 タイランの呼び掛けにシオリは答えなかった。
 熱に浮かされたように、目線も定まらず、心ここにあらずといった風だ。

「その女はもう助からん」

 目を上げたダンテの忠告もまるで聞こえていないようだ。

「な、なんだ」
「なんなの? この娘」

 シャマンやレッキスもシオリから目が離せずにいた。
 シオリが姫神であることは聞かされているが、実際その能力を見たわけではない。
 異様な雰囲気に動揺していた。
 そんなシオリが何かをつぶやくと手がぼんやりと光りだした。
 その場にいた全員が、なにか神々しい気分に包まれるのを感じた。

「なにをしている」

 ダンテの言葉に少しシオリは微笑むと、再び倒れ、眠ってしまった。
 光もすでに失われている。

「な、な、なんなんだよ」
「なんだったの、今のはさ」

 訳の分からない状況ではあったが、しかしそのあとに本当の奇跡を目の当たりにする。

「ギワラ!」

 それまで死の縁にいたはずのギワラが、意識を失いながらも苦しみ喘いでいたギワラが、何事もなかったかのように起き上がったのだ。
 それもたった今まで死の淵にいたとは思えないほどにスッキリとした朝の目覚めを思わせる顔をしている。

「おめえ」
「なんともないのか?」
「?」

 キョトンとするギワラにどう声を掛ければいいものか。
 誰もが言葉を失くしていた。
 そのとき、

「おやおや、これは驚きましたね」

 突然の声にギョッとしてみなが振り返ると、そこにカエル族がひとり、たたずんでいた。

「アカメ! お前どこに……」

 シャマンの問いに「いやいやいやいや」と手を振りながらアカメはシオリへと歩み寄る。

「いやいや、今のは明らかに白姫の癒しの力じゃないですか」
「癒しの力?」
「白姫の?」
「ええ。驚きましたね。姫神に転身もせずに力を行使するなんて。シオリさん、あなたもしかして、相当レベルアップしてます?」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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