
――異世界なんて来たくなかった。
シオリは不安を感じ、レイは不満を抱えていた。
おびただしい数の死骸と、瓦礫の散乱する村の真ん中で、二人は再会した。
シオリは傷ひとつない体にさっぱりとした白いセーラー服を纏い、レイはどす黒い返り血を浴びたリクルートスーツを着たままだった。
シオリは白く美しい剣を持つが、レイは黒く禍々しい剣を持っていた。
「レイさん、どうして……」
シオリの問いかけに、レイは悲しい目をする。
そして恨みがましい目でシオリを睨むと、
「あなたはいいわよ。優しいカエルさんたちに守られて」
「えっ」
「どうして私だけ?」
絞り出すような声だった。
「ズルいよ。だからみんな、死ねばいい!」
そう言ってレイは黒い剣を地面に突き立てた。
そして金切り声を上げて叫ぶ。
「転身! ……姫神!」
ゴウッ! と地面から黒い風がうなりを上げ、レイを飲み込む。
それを見たシオリは意を決し、白い剣を突き上げ叫ぶ。
「転身! 姫神ッ!」
天から一筋の白い光が降り注ぎ、シオリを包む。
その光景を嬉しそうに眺める女がいる。
長い金髪に黒いマント、全身を黒革のピッチリとしたスーツで覆った魔女だ。
「うふふふ。白姫と黒姫。全く相反する姫神同士が、こうも早くもぶつかるなんてね」
楽しくて仕方がないという顔で、その女は二人の少女を見ている。
光と風が止み、現れた二人は変貌していた。
肩のみを露出した、白い光沢のあるスーツを纏ったシオリ。
その背面には、光の羽が六枚もきらめいている。
そして黒い霧のようなドレスを纏ったレイ。
その頭部には、血のような真っ赤な茨の冠が収まっていた。
二人は向かい合ったまま、それぞれが剣を構え、そして同時に相手へと向かい、駆け出した。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
柿野間アユミは壁を〈壊し〉、冷たい雪の降る空に飛び立った。
集まった騎士たちが羽をはばたかせ追撃を始める。
中でも赤い出で立ちの騎士が苛烈な速度で猛追する。
アユミはその姿を認めると、全身から迸る炎の熱気を暴走させ、いともたやすく追撃者たちを振り切ってしまった。
秋枝ナナは居並ぶ重鎮たちの前で緊張を隠しきれなかったが、用意された銀色の、それは見事な全身甲冑を身にまとうと、自ずと気持ちが引き締まった。
後方で見守ってくれているハナイ司祭の笑顔に気付く。
あの女性のためならば、いかなる敵からも〈守る〉ことを誓おう。
ナナに傅く騎士団に向かい、剣を突き上げ己を鼓舞した。
瀬々良木マユミは愛を知らない。それゆえに〈愛する〉ことに飢えていた。
ガタゴトと揺れる電車の中で、己の孤独を嘆いていた。
この世界では愛されない。愛するあの子を手放した、私に愛される資格はない。
マユミは違う世界、違う生き方を渇望した。すると目の前に森が広がっていた。
長浜サチはすでに三十人もの戦闘怪人を血祭りにあげていた。
戦う事しか能のない、化物どもを〈束ねる〉には、痛い目に遭わすしかない。
慈悲なんて知らない。こんな奴らがどうなろうが自分はまったく痛くもない。
それよりもユカとメグが心配だ。私の前からあの二人を引き離すことは許さない。
渡来ミナミは冒険を〈楽しんで〉いた。
小さな会社の事務ではなく、広大な砂漠で魔物狩り。
猫耳や狐耳や兎耳、猿人や犬人の冒険者仲間に拾われて、ワクワクする毎日を謳歌していた。
これから緑砂の結晶狩り。どんな相手でも負ける気はしない。
異世界での冒険だなんて、こんな楽しいイベントが自分の人生に発生するなんて。
ああ、なんてしあわせなんだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二つの剣がぶつかった。
白い光と、黒い闇の波動が、辺り一面に吹き荒れる。
「さあ、ようやく始まるのよ! 姫神による生き残りを賭けた、大戦争が」
魔女が、興奮を抑えられずに高笑いを繰り返す。
その眼は恐ろしげな金色に輝いている。
――いつ、始まるかは、ようとして知れず。
――七人の姫神、異界よりまかり越す。
――その力は超常なり。
――されど七人、弱きものなり。
そして物語が始まる…………

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