「ネズミはギルドに殺された」
「マラガの盗賊ギルドとハイランドの盗賊ギルドが手を組んだ」
「メインクーンがハイランド第三皇子クネートに連れていかれた」
ダンテの診療所に戻ったシャマンとギワラの報告をまとめると上記三点だ。
差し当たって急を要するのはメインクーンだろう。
「あのネコを助けるぞ」
シャマンは当然とばかりにそう言った。
「しかし状況は厳しいな」
エスメラルダと開戦したために首都カレドニアは現在厳戒態勢が敷かれている。
当然王城ノーサンブリアの警備は平時とは比べるべくもないだろう。
ウィペットの指摘にシャマンは同意せざるを得ない。
「なんとかならねえか、ギワラ?」
ネズミがいない今、この国の裏まで知る頼りはギワラ以外にない。
しかしあいにくギワラは首を横に振るのみだ。
「さすがにハイランドの王城に潜り込むのは難しいです。まして今の状況では」
「マジかよ……クネートってのは相当ヤベエ奴なんだろ?」
全員が押し黙ってしまった。
タイランやウシツノは不必要な意見で場をかき乱さないよう沈黙している。
シオリとハクニーは離れた位置に佇み、机と椅子だけとなったこの診療所跡地の主であるドクターダンテは、一切の関心を示さず珈琲を嗜むだけだ。
「一番簡単なのはハイランドが負け、エスメラルダに占領されてしまう展開でしょうね」
赤い目をしたカエル族のアカメが何かを弄くりながらそう発言し、一同を驚かせた。
「おい、アカメ。不謹慎じゃないか」
「何がです? その際の混乱に乗じるのが一番手っ取り早い」
ウシツノがたしなめるもアカメは平然としている。
「ハイランドが勝ったらどうなんよ?」
レッキスの質問にアカメは深刻な声で、
「残念ですが、その時は戦勝気分も相まって、クネート皇子の好き放題にされるでしょうね。その方」
拷問が趣味の変態らしい。
「そうならないために我々はエスメラルダを応援しましょうか?」
「他力にすがってどうする! オレたちでどうにかするのが先決だろ! こうなりゃ正面突破……」
「論外!」
焦れたシャマンの提案に全員が呆れる。
「じゃあどうすりゃいいんだ……」
「こっそりと潜入する。そしてこっそりと脱出する。それがベターでしょうかね」
ようやく手元から顔を上げると、アカメはいまだ我関せずなダンテに向き合い、
「秘密の抜け穴とか、ご存じありませんか?」
と質問した。
「なぜ私に聞く」
「この中で唯一知っているだろうと思うからです」
「おいおいアカメよ。医者がどうして城の秘密を知っていると思うんだ?」
ウシツノの疑問も当然だろう。
「王族に近しかった者なら知っていてもおかしくはないでしょう」
「はあ?」
「そもそもお前どうして……この数日何をしてたんだ?」
アカメはウシツノの問いに答える形でいま一度ダンテに向きなおると、
「私は今、姫神についてを知るために亜人戦争を調べています。もう少し具体的に言いますと、聖賢王シュテインは何故西側の辺境大陸へ進軍したのでしょうか」
「私にわかるわけなかろう」
「ですがあなたの父君なら、なにか聞き及んでいたのではないですかね」
「……知らぬ」
「なんでも構いません。そうですね、普段とは違った様子とか、聞き慣れない言葉とか?」
話の先が見えず、たまりかねてシャマンとウシツノが声を出す。
「おいおいアカメ! なんの話をしてるんだ? 抜け道を聞き出すんじゃなかったのか?」
「そもそもこの闇医者は何者なんだ? 王族に近しいだって?」
アカメはダンテをうかがうように見る。
「よろしいですか?」
「今さらなんだ。……好きにしろ」
「失礼。実はこの方の父君は、かつて聖賢王シュテインからのもっとも信頼厚き御仁、ウーゴ・アダイ公爵」
一同驚愕する。
「元……公爵だ」
ダンテが訂正する。
「そしてこの方はそのご子息であられる、本名はジルゴ・アダイ殿です」
「ジルゴ・アダイ?」
「その名、どこかで……」
首を捻るウシツノとシャマンにクルペオが呆れた調子で、
「たわけ。ネアンの領主代理からの依頼を忘れたか」
「あっ! あのお嬢ちゃんか」
言われて思い出した。
「カレドニアにいるジルゴ・アダイ卿に渡すよう手紙を預かっていたんだったな、シャマン」
「そうだウシツノ。ネズミに紹介してもらうつもりだったが、途方に暮れてたところだぜ」
「二人ともようほざくな」
「キヒッ! しかしラッキーだぜ。おいウシツノ、手紙だ」
ごそごそと背負い袋から封書を取りダンテに差し出す。
「なんだ?」
「ネアンの領主の娘からだ。内容までは知らない」
「ミゾレ、か」
ネアンの領主、オロシ・ネアン・カナン伯爵のひとり娘、ミゾレ・カナンの事だ。
手紙を受け取るとダンテはゆっくりと目を通す。
常に関心を示さないその目元に、わずかに慈しむような感情が見え隠れしている。
「なにが書いてあるんだ?」
ぶしつけなウシツノの質問を咎めることもなく、ダンテは目を上げると、
「お前たち、城へ忍び込みたいのだな?」
「あ、ああ」
シャマンが代わりに返事する。
「城の地下牢へとつながる旧い通路がある。今も健在のはずだ」
「本当か! 教えてくれ」
「条件がある。私の依頼を受け、完遂してくれる、というな」
「依頼?」
「私が長年探し続けていたあるヒトが囚われている。無事連れ出してほしい」
「救出目標がひとり増えたぞ」
ウィペットの言にシャマンが唸る。
「無理なら他を当たる。お前らも他を当たれ」
「シャマン、受けるしかないと思うんよ」
「左様。時間もそうないしのう」
「くっそ、仕方ねえ。ひとりもふたりも困難なことに変わりはねえしな。受けてやるぜ」
うむ、とダンテもうなずく。
「あ、ひとつ確認しておきますが」
そこで再度アカメが割り込む。
「城への潜入依頼、それはシャマンたちの受けたご依頼、と解釈してよろしいですね?」
「どういうことだアカメ? オレたちは行かないのか?」
「ウシツノ殿、ヒトが良すぎますよ。私たちには私たちの目的があります。なによりシオリさんを連れて行くのも置いていくのもどうかと思いますよ」
「あ、むう……」
病み上がりの上、白姫に転身するのに必須の神器を失くしてしまったという。
「気にすんなウシツノ。そもそも潜入するのにそんな大人数じゃかえって危険だ」
「そうだ。それにこういうのは息の合ったパーティメンバーで行くのが好ましい」
「そうか……そうだ、な」
シャマンとウィペットに諭され、ウシツノも幾分心が和らぐ。
「そうですよ。ダンテ殿の依頼はシャマンさんたちに任せ、我々は別の物を城から持ち帰らなくてはなりません」
「な、なんだってアカメ?」
「おいおい、結局お前らも城へは行くのかよ」
一斉にツッコミが入る。
「いいじゃないですか。潜入口の情報ぐらい分けてくれても。元は私の質問から始まった事でしょう?」
「図太い神経してんよ、このカエルも」
「もちろん中では別行動です。敵の目も分散されるのですから、そちらにメリットもあるでしょう?」
「う……うぅ」
アカメの指摘にレッキスは唸るしかない。
「行くのは私とウシツノ殿の二人です。タイランさんとハクニーさんはシオリさんと一緒にいてください」
「おいアカメよ。オレたちの目的ってなんだ?」
「桃姫の部屋です」
「なっ、正気か! オレとお前だけでか?」
シオリと同じ姫神、桃姫は王城のどこかにいるはずである。
「おそらくそこにあると思うのですよ」
「なにが?」
「シオリさんの神器シャイニングフォースです」
「あっ」
声を上げたのはシオリだ。
ケンタウロス族の集落からひとりで特攻したとき、桃姫から逃れる際に紛失してしまった。
タイランのレイピアは戦場に残されていたが、シオリの剣は探しても見当たらなかった。
「必ずあるはずです。拾得して持ち帰っていないわけがない」
「桃姫の部屋、か」
「ある意味オレ達より難易度高ぇかもな。キヒヒ」
「意地悪な笑い方はやめよ、シャマン」
クルペオにたしなめられたシャマンだが、
「いいぜ。オレたちの後馬に乗っかれや」
と、承諾したのだった。
「あの、私も、連れて行ってくれませんか?」
最後におずおずと手を上げたのはギワラだった。
今まで成り行きを見守っていたが、どうしても声を出さずにはいられなかった。
「ああ? なに言ってやがる」
「……」
「当たり前だろう。お前はもうとっくに、オレたちシャマン一行の仲間なんだからよ」
ポン、とギワラの肩に手を置くシャマン。
「シャマン一行ってパーティー名にした覚えはないんよ」
「来てくれるのはありがたい。こちらからも頼む」
「ギワラよ、言うたであろう。このパーティーでの約束事じゃ」
「そうそう、正誤のわからない事柄は、シャマンが決めたら一応従うんよ」
「一応って、なんだか効力が弱まってねえか?」
「最近支持率落ちてきたからね」
「なに! そうなのか?」
ハハハハ、と笑い合う一行に混じり、ギワラにも自然と笑みがこぼれていた。
「決まったのだな。では通路の在りかを教えよう」
ダンテが一枚の古地図を広げた。






