――聖刻歴一万九〇二二年一の月一日。
サチが藍姫として覚醒してから半年が経った。
東の緑砂大陸グリーンランドの中央南部に広がる広大なアーカム大魔境。
そこを統べる妖精女王ティターニアは、その間じっと耐え忍んでいた。
普段サチはおとなしい。
支配の宮殿ヴァルテン・パラストの奥にある、青一色の謁見の間。
壁も床も柱もすべて青い大理石で組まれている。
その部屋の玉座に一日中ぼーっと座り、身動ぎひとつしない。
何を話すでもなく、何を見るでもない。
何を命令するでもなく、何も求めもしない。
日本からやってきた時と変わらずに学校の制服を着用し続けている。
用意された豪奢なドレスも、甲冑も、見向きもしない。
そして何もせず、一日一日がただ過ぎていくのだ。
「これではただの腑抜けだ」
ティターニアはそう思い、一度サチから二人の親友を引きはがしたことがある。
ユカとメグ。
サチとともに日本からこの世界に転移してきた哀れな犠牲者だ。
今では蠍型のスコルピオーン、天道虫型のマリーエンケーファーという戦闘怪人に改造され、自らの意思を持たずにサチのそばに仕えている。
この二人をサチから離してみたところ、サチは狂乱し、藍姫の力を暴走させかけた。
腕ずくで抑えようと試みたが三十人からの戦闘怪人を無駄死にさせてしまったのだ。
結局二人をサチのそばに戻したことで狂乱は収まったものの、腑抜けへと戻るだけだった。
「何かないものか。藍姫を動かす手立て。マラガでも、エスメラルダでも、五氏族連合でも構わん。そろそろこの地に巣くう者共にも血を与えねばならんか」
人間でも亜人でも精霊でもなく、我ら改造人間がこの世界を統べる。
それはどうしても成しえねばならないティターニアの悲願であった。
「ティターニア様」
部下が報告を携えやってきた。
「なんです?」
「北西第八エリアに哨戒に出た蜻蛉よりの報告です。二人の不審人物が真っ直ぐこの宮殿に向かっているとのこと」
「何者です?」
「リベレの見立てでは揃いの旅人帽に二人とも鳥人族であることからおそらく」
「クァックジャード!」
ティターニアの目が見開く。
「今、この地へ奴らが現れるとは、どこからの差し金か」
各地の調停を請け負うクァックジャード騎士団に国境はない。
いかにして戦争、紛争を防ぐか、そのための平和の使者としての特権を全世界から承認されている。
それゆえに戒律も厳しく、いかなる時も中立を保つことを求められているのだが。
「すでにクァックジャード騎士団とて、長い歴史でその理念など形骸化しておる。一応の名目はたてておるが、奴らとて私利私欲に溺れる俗人にすぎん」
「では、迎撃なさいますか」
「それは早計だ。まだ我らも体制が整ってはおらぬ。とりあえずは受け入れて様子を見る。場合によっては……」
ティターニアの中で幾通りかの未来が計算され始めていた。






