【第152話】狐と鬼、二つの力

 姫神に転身したミナミの姿を間近にし、スイフト爺は改めて感嘆した。

「その姿、やはり九尾の狐ナインテイルじゃな」
「ナインテイル?」

 ミナミが小首を傾げる。

「そうじゃ。強力な神通力を誇る、〈ふるきモノ〉のひとつじゃよ」
「ほう、そいつも姫神だったのか?」

 シャマンが尋ねる。

「そうではない。旧きモノが姫神なのではなく、旧きモノの力を宿したのが姫神なんじゃ」
「あぁ? 何かちがうのか?」
「ちがうんじゃ」
「姫神はみんなそういう強力な存在の力を具現できるん?」

 レッキスの疑問を耳にしてメインクーンがハッとする。

「あ、もしかして盗賊都市を壊滅したレッドドラゴンやゾンビーって」
「そうか、それも旧きモノとかいう奴らの力の具現化か」

 ウィペットも合点がいったようだ。

「けどさあ、ミナミの宿してんのは狐の化け物なんでしょ? ドラゴンになんて勝てる気しないんよ」

 レッキスのその発言にスイッチが入ったのはクルペオだった。
 烈火のごとく異議を唱えだす。

「何を言うかレッキス! 九つの尾を持つ妖孤じゃぞ! 負けるはずなかろう」
「ク、クルペオは同じキツネだからって贔屓してるんよ……」

 白い目でクルペオを見つめるレッキスに、スイフト爺が補足を入れる。

「いやいや、ナインテイルは気の遠くなるほど遥か古の時代、その美貌と奸計をもっていくつもの大国を滅亡せしめた大妖怪と聞くぞ。やおらドラゴンといえども引けは取るまい」
「へえぇ」
「ほれ見たことか」
「クルペオがドヤることじゃないでしょ」
「び、美貌……」
ミナミそこ! 嬉しそうに照れてるんじゃないッ」
「どうでもいいけどよ、そろそろやべぇぞ」

 周囲を見渡しながらシャマンが一同を制する。
 確かにミナミたちを包囲する憲兵たちの足音が間近にまで迫っていたし、嵐が巻き起こす風は激しさを増すばかりだ。

「ミナミ、策があるならとっとと始めてくれ」
「うん!」

 勢いよく返事したミナミが目の前の大木の幹にしがみつく。

「ンッッ!」

 そして力を込めて引き抜こうとする。

「あの、ミナミ、さん? もしかしてその大木を引っこ抜こうとしてらっしゃる?」
「お、おいおい。そりゃいくら何でも無理だろう」

 大木は優に大人の背丈の三倍以上あり、幹の太さは大人が両手を広げても二人はいないと抱え込めない太さがある。
 そのような大木、土の中の根まで考えると引き抜こうと考えること自体どうかしている。

「姫神がすごいことはわかるけど、いくらなんでも無理なんよ」
「ぐぐぐぐ」

 構わずミナミは力み続ける。

「いくら姫神と言えど、ナインテイルを宿す金姫は言わば魔力に特化した存在じゃ。さすがにこれは……」
「ガアァァァァァァァァア」

 一同が呆れる前でなおリキみ続けたミナミに変化が現れた。
 みるみるうちに筋力が肥大化し、そしてなんと額からズンズンと鋭い一本角が生えてきたのだ。

「げげっ!」
「な、なんと! こやつ……」

 驚くスイフト爺の目の前で、ミナミはズズズズと大木を上に引き抜き始めた。

「お、おい! 引き抜けてるぞ」
「マジで?」

 呆気にとられる一同の前で少しずつ大木を引き抜くミナミ。

 ブチッ! ブチブチッ!

 そのとき地面から少し顔をのぞかせていた多くの根が、引っ張る力に逆らえずブチブチと引きちぎれていった。
 土の下からの抵抗がなくなった大木は、その後あっという間に地面から引きはがされ、まるで重さを感じないかのようにミナミの肩に担がれてしまった。

「はあはあ、根っこ、切れちゃった。傷つけるつもりはなかったのに」

 そういって振り向くと、

「抜けたよっ」

 にっこり微笑むミナミにみな声も出ない。

「こりゃあ、驚いたわい」

 最初に声を上げたのはスイフト爺だった。

「これは明らかにナインテイルの力ではない」
「どういうことだ?」
「うむ。額に生えた角を見てみい。まさしくそれは鬼神〈夜叉ヤクシニー〉の力」

 ミナミを見ながらスイフト爺の声が震える。

「信じられんが、この娘、金姫はナイン・テイルとヤクシニー、二つの力を宿しておる」
「そうなの?」
「おいおいマジか」
「強力な力を二つも持ってる。それって無敵じゃないの?」
「いや、うちはこれで納得したんよ。ミナミはどっちかって言うと大剣ぶん回す脳筋組だからね。狐の大妖怪より鬼神と言った方がピッタリなんよ」
「お、そうだな」
「たしかに」
「ひどい! 私だって考えてるのに」

 レッキスの言葉に納得しかけている一同にミナミは顔を真っ赤にして抗議する。

「で、その引き抜いた大木でどうするつもりじゃ」

 クルペオの疑問にミナミがニヤっとほくそ笑んだ。

「みんなこの大木にしがみついて。私がみんなごと、この大木を森の外までぶん投げるから、それで一気にこのエリアを脱出しよ」
「………………」

 今度こそ誰も声を上げる者がいなくなった。

「どうしたのみんな?」
「それ、絶対上手くいくわけないにゃ」
「そんなことないよ。子供のころマンガで読んだもん。世界一の殺し屋が柱をぶん投げて、自らそれに飛び乗って遠い場所まで移動するんだよ」
「………………」

 一同の顔から疑いの眼差しが消えることはない。
 だがそのとき、

「いたぞォ! こっちだ」

 ついに憲兵たちに居場所が知られてしまった。
 木々の向こうから何人もの武装した憲兵たちが向かってくるのが見える。

「やれるやもしれぬ。ヤクシニーの怪力とナイン・テイルの神通力を併せ持つ金姫ならば」

 スイフト爺の言を待つまでもなく、腹を決めたシャマンは一同に命令した。

「仕方ねえ。今はミナミを信じるんだ。全員大木にしがみつけッ」

 こうなっては誰も異議など唱えない。
 リーダーであるシャマンが決断したのだ。
 正解のわからない問題に対してはリーダーの決断に従う。
 それがこのパーティーの唯一のルールであった。

「よし、いいぞ。ミナミ!」
「うん!」

 仲間のしがみついた大木を上空へと向けながら、ミナミは力をため込んでいく。
 ただひとり、その大木から離れた位置で、スイフト爺が声をかけた。

「金姫よ。最後にひとつ、言っておく。これはワシがいつも教え子たちに言って聞かせる事なのじゃがな」

 ミナミが目だけをスイフト爺に向ける。

「よいか。物事の真実や裏側というのは、必ずしもお主の期待に応えてくれるものとは限らん。むしろ、より深い悲しみを背負うこともようあることなんじゃ」

 ミナミは黙って聞いていた。

「じゃが、知ることを恐れてはいかん。知ることで次への道が開かれる。目の前に現れるものなんじゃ、行き先というものはな」

 こくん、とミナミが頷いた。

「では行くがよい。そして自身がなぜこの世界に導かれたのか、その力で何を成すべきなのか。見つけるのじゃ」
「ガァアアアアァァァァァァァァアアアアアア」

 ミナミの咆哮が迸る。
 抱えた大木を力いっぱい上空へと投げ上げた。

「ひぃやぁあぁぁぁああああああ」
「うおおおぉぉぉぉぉおおおおおお」

 超高速で射出された大木から発せられる仲間の悲鳴が遠ざかる。
 ミナミはひと呼吸間を入れると飛び上がり、そして九つの尾を広げ追いかけるように上空を加速した。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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