【第203話】囲まれている

 パンドゥラの箱の正体が姫神の神器ですって?
 そんな記述、ハイランドの建国伝説にはどこにも書かれていませんでしたよ。
 しかしそれが事実であるとすれば、それは意図的に隠されたものなのかもしれないですね。

 それは何故か?
 いったい誰が?

(他の文献も改めてみる必要があるかもしれませんね)

 新たにやることを見出したアカメは人知れず心躍っていた。
 だが彼の興味を惹く出来事はこれだけにとどまらなかった。

 ベルジャンは背負い袋に丁寧に〈箱〉を詰めると洞窟を引き返し始めた。
 その後をついていきながら思案にくれるアカメだったのだが、シャマン一行はより直接的に疑問を投げかけてきた。

「なあ、おい! いま姫神って言ったよな?」
「ああ……」
「なら教えてくれ! オレたちは姫神について知りたいんだッ」

 ぴたりと歩を止めたベルジャンが振り返る。

「何を知っている?」
「な、なにをって」
「姫神についてを知る者は少ない。その名どころか存在すらもだ」
「それは承知している。実際我らも数ヶ月前まではそうだった」

 すかさず答えるウィペットに対し、今度はアカメから聞き返す。

「何かあったのですか? その数ヶ月で」
「ああ、まあ、その……」

 頭を手で抱えながらシャマンは言いにくそうに口ごもる。

「何て言うかな……話すとまあ、結構長いんだが……」
「我らの仲間である姫神、金姫が蛮神ズァにさらわれたのじゃ」
「えっ!」
「なんだって!」
「おいクルペオ! そこまで……」
「こやつらは信用できる。長く生きた女の勘じゃがな」

 説明の要領が悪いリーダーを補足するのは常にメインクーンの役目なのだが、彼女がいない今はクルペオが担うらしい。

「金姫とおっしゃいましたね?」
「ズァと言ったか!」

 アカメとウシツノがそれぞれ反応する。
 お互い興味のポイントに違いがあるようだ。

「そうじゃ。我らはミナミという金姫の手懸かりを求め、ハイランドに来たのじゃ」
「その反応、お前たちも姫神に関わりがあるのか?」
「あ、まあ」

 ウィペットの洞察に対し、ウシツノは返答に詰まった。
 その代わりにベルジャンが別の答えを披露する。

「我らがいま戦うべき相手が姫神の桃姫。その名も淫魔艶女ナイトメア・サキュバスというのだ」
「桃姫? 敵なのか?」
「そうだ。ハイランドの国王ブロッソに上手く取り入った奴がいてな。そいつが桃姫を伴い、国王に引き合わせた結果、今やこの国に強い影響力を持つに至った」
「桃姫を連れてきた奴がいるのか。いったいどこのどいつなのだ」
「詳しい出自は不明だ。魔道具を商う旅の商人だという話だが、なんでも大層美しい顔立ちをした青年らしい」
「魔道具……美青年?」
「どうかしたか、クルペオ?」

 何かを考えこむクルペオにシャマンが声をかける。

「もしやその者、例のファントム……」
「マジか? おい、そいつの名前はなんていうんだ」
「そこまではわからん。ケンタウロス族われらは戦士であり密偵ではないのだ。街に常駐している訳でもないしな」
「チッ」
「チェルシーです。魔道商人チェルシーと名乗っています」

 それまで黙って話を聞いていたギワラが割って入った。

「なんでぇ! お前知ってたのかよ」
「あなた方のミッションとあの商人が関係しているとは考えてなかったので」
「そりゃオレたちも箱のことで頭がいっぱいだったけどよ! 察しろよ」
「無茶を言うのですね」
「で、何者なのだ、そやつは」

 いつでもウィペットは話の軌道修正を心掛ける。

「数ヶ月前にこの国に現れ、ハイランドの大将軍ジョン・タルボットに庇護されました。理由はわかっていません」
「そいつがオレたちを嵌めたファントムだと思うか?」
「話に聞く風体と似通ってはいます」
「そうか」

 そこで一旦黙り込んだシャマンたちに向かい、

「あ、あの! 金姫についてお聞きしたいのですがッ」
「百獣の蛮神ズァに会ったのか? どうだった?」

 堪りかねたアカメとウシツノがやや興奮気味に質問を繰り出す。だが……

「待て! 外の様子がおかしいぞ」

 歩きながら会話をしていた一行が、そろそろ洞窟の出口に差し掛かろうかという頃だった。
 先頭を歩いていたベルジャンが外からの異様な気配を察し、待ったをかける。

「ここは私が」

 自ら進み出たギワラが忍び足で出口へと向かう。
 息を殺し、そっと外の様子を観察するとすぐさま戻ってきた。

「囲まれています。おそらくハイランドのパペット軍団」
「数は?」
「パペットは生物ではないので気配を発しません。目視以外で確認のしようがなく」
「わからねえってことだな」

 常にクールなギワラだが、この時ばかりは悔しさを噛み殺しているのが伝わってきた。

「何故ここがわかったのか……」
「出口はここしかないんだろ?」

 歯噛みするベルジャンに向かいウシツノが問う。

「ああ、そうだ……」
「なら正面から突破するしかないな」

 臆すことなく腰に佩いた太刀、自来也を鞘走らせる。

「お、気が合うじゃねえか! オレも同じ考えだぜ」

 シャマンがキキッ! と嬉しそうにウシツノの頭を撫でた。

「ガキのように扱うな」

 ウシツノに撫でていた手を払い除けられたシャマンはますます嬉しそうに嗤った。

「まったく、お前たちは勇敢なのか無謀なのか……ま、それだけに今は心強くもある」

 ベルジャンと共の戦士たちも武器を構える。

「いくぞッ」

 ウシツノの号令で一行は一斉に表へと飛び出した。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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