【第31話】ボイドモリが来る

 夕食を終え、皆あっという間に眠りに落ちてしまった。
 タイラン、ヌマーカ、ウシツノ、アカメは交代で見張りをすることにした。
 シオリとレイ、インバブラはあまりの疲労でぐっすりと眠っている。
 時刻は真夜中。
 その時間、寝ずに番をしていたウシツノは、ほどなくしてもぞもぞと起き上がってきたインバブラに気が付いた。
 そのままインバブラは何も言わずに森の中へ入っていこうとする。

「おい、どこへ行くんだ?」

 インバブラは何も言わずに股間に手をやった。

「小便か……」

 森の中に消えたインバブラの悲鳴が聞こえたのはそれからすぐだった。

「ッ!」

 たちまち皆が目を覚ます。
 各々の武器を手に持ち、森へと駆け込む。

「シオリさん、レイさん、ここにいてください」

 アカメにそう言われ、シオリとレイはその場にとどまった。

 森の中には多くの殺気が漲っていた。
 ウシツノ、ヌマーカ、タイラン、そしてアカメがやって来た時、暗がりに倒れ伏し、ぶるぶると震えているインバブラの周りにトカゲどもの姿があった。
 その中でも大柄で、緑のウロコに後頭部から背にかけて鋭いトゲの列を持つ、ボイドモリがずい、と正面に出てきた。

「追いついたぞ。クソガエルども。意外と早かったな」

 ニタリ、と舌を出しながら下品な笑みをこぼす。

「黒姫を渡してもらおうか」
「黒姫? なんじゃそれは」

 ヌマーカがとぼけてみせる。

「ニンゲンの娘だよ。どこに隠した?」

 ボイドモリの威圧にウシツノとタイランが剣を抜き構える。

「おっと! やるってのか? こいつがどうなっても知らんぞ」

 そう言ってボイドモリは地面で震えているインバブラの背中を蹴り飛ばした。

「ぐえ」

 ドスッ

 そのまま左足を倒れたインバブラの背中に乗せる。

「そやつに人質としての価値はないぞ」

 ヌマーカは構わず懐に右手を差し入れる。

「ほう、薄情な奴だなあ。もっとも、正面からりあってもこちらは一向にかまわんがなあ」

 じりじりと少しずつ緊張感が増していく。
 きっかけがあれば、すぐさまここは血風舞う戦場と化すであろう。
 その時だった。

「キャアーーーーーーーーーッ」
「レイさあん!」

 遠くからレイの悲鳴とシオリの叫び声が聞こえた。

「しまった! まだいたのか!!」

 ウシツノとタイランはすぐさま二人の元へと走り出し、アカメもそれに続いた。
 それに半歩、間をおいてからヌマーカは煙玉を投げ、辺りに煙幕を張る。

「くそ! また煙か! 追えッ! 黒姫はこの先だ」

 ボイドモリの号令にトカゲの戦士たちが走り出す。
 その混乱の中、そそくさと地面を這いずって、みんなとは逆方向にインバブラは逃げ出した。

「くそが。トカゲどもに、ヌマーカのくそじじいもだ! このオレ様をコケにしやがって」

 煙幕から抜け出し、トカゲどもが走り去るのを見届けてから、インバブラは身を隠した岩場の陰で毒づいた。

「あのニンゲンがなんだってんだ。それほど価値のあるもんだってのかよ」

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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