【第12話】赤い鳥の騎士

 精いっぱいに呼吸を整え、トカゲどもに相対する。
 ヌマーカに対し四匹で半円形に取り囲むトカゲ族。
 その中でも左端に位置する一匹に狙いを絞る。
 手負いだからだ。
 最初に目潰しされ、手首まで斬られた間抜けだ。

(一匹ずつ、数を減らす以外あるまい)

 先に動いたのはヌマーカだ。
 右へ向かうと見せかけ、反転、狙い定めた左端の間抜けへ斬りかかった。
 案の定こちらを舐めていたトカゲどもは、簡単なフェイントに引っ掛かり、全員攻撃動作への移行が一歩遅れた。

 同時にバサッ! と羽ばたきの音が聞こえた。 

 何者かがこの戦闘エリアへと踏み入ったようだ。

(乱入者ッ?)

 ここまで接近されるまで、トカゲ族どころかヌマーカまでもが気付けなかった。

(上空からかッ)

 そいつは上空から凄まじいスピードで滑空してきたのだ。
 虚を突かれたトカゲどもは動きが止まってしまった。
 虚を突かれた、という点ではヌマーカも同様であったが、彼は止まらずに間抜けの首筋を切り裂く動作までをやり終えた。

「ッ!」

 瞬時に乱入者へと振り向いたヌマーカは愕然とした。
 残った三匹のトカゲ族どもは、その乱入者によって一瞬のうちに全て葬りさられていたからだ。
 トカゲどもはその乱入者のことをただただ「赤い」としか認識できずにこの世を去った。
 ヌマーカはすぐに心を切り替え、その赤い乱入者に注意を向ける。

(敵か?)

 そいつは静かにそこに立っていた。
 全身が赤い。
 返り血ではない。
 身にまとうもの全てが赤いのだ。
 顔を隠すように深々とかぶる鍔広の旅人帽トラベラーズハット
 全身を覆い隠すほどの大きなマントも赤い。
 いや、マントではない。

「羽……お主、鳥人族バードマンか」

 バサッ、と乱入者はマントのような赤い羽を広げる。
 その下にはがっしりとした身体と両脚がある。
 両腕は肘の辺りまで羽と一体と化し、その先は風を切る羽と敵を斬る剣を持つ腕とに分かれている。
 腕も足も筋肉が引き締まった力強さがあった。
 軽めの短衣チュニックにズボン、ブーツにグローブまでもが赤い。
 手にした細剣レイピアのみがトカゲの返り血で赤く染まっている。
 旅人帽トラベラーズハットの下から鋭い目とくちばしを持つ顔が現れた。

「いかにも。私の名はタイラン。誉れ高き、クァックジャード騎士団オーダー騎士マスターである」

(クァックジャード! 鳥人族バードマンの主力騎士団までがいったい何故こんな辺境に……)

 声に出したりはせずとも、ヌマーカの一瞬の筋肉の強張りで、タイランと名乗った赤い鳥はヌマーカの疑う気持ちを察した。
 敵意のないことを示すために、タイランから剣を鞘に納める。

「失礼とは存じたが、貴殿があまりにも不利と見えたのでな。勝手ながら助太刀させていただいた」

 そう言って一礼するこの赤い鳥を信用してよいものか。
 ヌマーカは迷ったが、それほど考える時間の余裕もない。

「…………いや、助太刀、感謝する」

 ヌマーカもクナイを懐に仕舞う。

「ワシはヌマーカという。訳あってそこのニンゲンを安全な場所へ連れて行く途中でな」
「ほう」

 赤い鳥はニンゲン越しにカザロ村の方角を見やる。
 木々の向こう側に黒煙が立ち上っている。
 そのことには触れずヌマーカに視線を戻す。

「どうであろう。貴殿もだいぶ疲労の色が見える。何よりこの、大事なニンゲンはかなり衰弱している様子。騎士として見過ごすこともできぬゆえ、私もお供させてはくださらぬか」
「しかしそれは」
「護衛の役には立ちますぞ」

 ヌマーカは思案した。
 この赤い鳥の目的がわからない。
 なぜこの場に現れた?
 なぜ介入しようとする?
 なぜトカゲでなくワシにつく?

 そしてなぜこのニンゲンが大事だと思う?

 そもそもこの状況はわからないことだらけだった。
 謎の白光から一夜明けて、瞬く間に事態は急変してしまった。
 だがわかっている事もある。
 こやつの言う通り、このニンゲンはかなり衰弱している。
 この状態でトカゲ族の包囲網を脱出するのは困難であるということ。
 そしてこの赤い鳥は、現状、ワシよりもはるかに腕がたつということ。
 敵にまわして勝ち目はない。
 何が目的かはわからぬが、ヌマーカ自身、目的も定まらない現状である。

(断って今こいつに斬り殺されるか、または、抱き込んで後で利用されたことを知るか)

 答えは出ている。

「いや、ここで出会えたのがお主のような気高き騎士であったこと、何よりの幸運。お申し出、まことにかたじけない」

 探りを入れるかのように相手を立てた返答をする。
 しかしタイランは意に介すこともなく、ひとつ頷いただけで答えた。

「それは了承と受け取ってよかろうな。なに、悪いようにはせん」

(そう願おう)

「とりあえずは身を隠すことにしよう。そのニンゲンの回復を優先すべきだ」

(いちいちもっともだ)

 今のところヌマーカにも異論はない。

「どこか、適当な場所は知らぬか、ヌマーカ殿」
「そうさな……」

 ニンゲンを背負いながらヌマーカは思案した。

(できるなら、ウシツノ様たちと合流したい。無事であるならば、あそこへ向かわれるやもしれぬ)

「ゴズ連山。まずは山中へ向かおうと思う」
「……了解した」

 すでに太陽は沈み、辺りを薄闇が覆い始めていた。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」先行掲載、鋭意連載中、「ノベルアッププラス」には467話(更新停止)まで掲載されています。

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