「グゲェッ」
不気味な笑い声を発しながら蠢く鎖をむんずと掴み、ウシツノは刀を押し当てる。
「フンッ」
そして力強く刀を押し込み鎖を見事断ち切った。
切断された鎖からかすかに黒い靄が霧散したように見えた。
「結構固いぞ。並の鎖よりもずっとな」
「桃姫という姫神の妖力だ。単に動くだけの鎖ではない」
「ミミックと言っていましたね。何がしかに擬態するモンスター、桃姫はそれを生み出す能力を持っていると」
アカメがうんうんと頷きながら何かを考えこんでいる。
「シオリさん」
「……はい?」
「ちょっと、この動く鎖を触ってみてはくれませんか」
「え、え~! やだよキモイ」
「キ、キモ……お願いします、そこを何とか」
「もう……」
いまだ変身を解いていないシオリが蠢く鎖におずおずと手を伸ばす。
触れようとすると身をくねらせ、不気味に笑いながら避けようとする鎖にシオリは嫌そうな顔をする。
「蛇みたい……」
ところが意を決して鎖を掴むと急に動きが緩慢になった。
「なんだ? シオリ殿が掴んだ途端、なんだか弱々しくなったぞ」
「やはり、私の仮説が当たってそうです」
「仮説だと?」
「ええ、そうです。シオリさん、いつもご自身のセーラー服を治すように、この動く鎖たちを治してみてくれませんか」
「え、ええっ!」
戸惑うシオリだが、アカメの言うとおりにしてみることにする。
「光あれ、リュミエール……」
あたりで蠢いている十数本の鎖たちが光に包まれた。
するとけたたましい笑い声が途絶え、鎖はそれきり動かなくなってしまった。
「ど、どういうことだ?」
「どうぞみなさん、ご自分で斬ってみてください」
ガキンッ!
戦士たちが自らを縛める鎖を得物で断ち切る。
それは先程とは違い、いともたやすく実行できた。
「ようは鎖からすれば〈状態異常〉だったわけですよ、勝手に動き回るなんてね。となれば常に状態異常を無効化できる白姫が触れれば」
「無機物にかかった桃姫の妖力を無効化できるというわけか」
ウシツノが不思議そうにシオリを見る。
そのとき異変に気が付いた。
「シオリ殿?」
「…………」
操り人形の糸がプツリと切れるように、シオリは力が抜けてその場にくずおれた。
意識を失ったようで姫神の変身も解けてしまう。
「シオリさん!」
「シオリ殿ッ」
ウシツノやタイラン、アカメだけではない。
ハクニーにベルジャン、そしてほかのケンタウロスもシオリの元へ駆け寄った。
ぐったりとして目を開けないシオリを心配そうに見守る。
「ひどい熱だ」
「とにかくここを離れよう」
ハクニーがその背にシオリを乗せると、ウシツノたちはベルジャンたちに案内され、その場を移動し始めた。
蒼い狼の巣食う谷底から草原地帯を東へ目指す。
遠くの空からその一連を眺めていたモノがあった。
人の頭ほどの大きさのフクロウだ。
羽を広げ、大空を滞空している。
ガシャン、ガシャン……。
羽ばたく度に異音がする。
それはそうだろう。
そのフクロウは体がブリキで出来ているのだ。
ところどころ薄汚れたボディは鈍い黄金色。
目にはレンズが光り、腹には歯車が回っている。
ブリキのフクロウがウシツノたちの向かった方角を確かめる。
そしてしばらくすると反対の方角へと飛び去った。
そちらにはハイランドの首都である聖都カレドニアがあった。






