ミナミの予想通り、仲間は全員〈聖域〉にある遺跡のそば、思い出の木の下に集まっていた。
「よかったぁ。やっぱりみんな、ここにいたんだね」
着地するや変身を解き、安堵した顔のミナミにシャマンが応じた。
「当たり前だ。バラバラになった時は各自、ここに集合するよう決めていただろう」
「うん。でもなんでここなの? ここ、私あんまりいい思い出がないから嫌なんだけどぉ」
「なに言ってんよ。ウチらが出会った大切な場所やんか」
「……言いながら笑ってるよね? レッキス」
「ミナミ鍋、味わってみたかったのぉ」
「ク、クルペオ!」
「ミナミは油で炒めた方が美味しいって言ったにゃ」
「やめてよメインクーン!」
「いや、やはり丸焼きが一番だ」
「……ウィペットまで。もうその話は金輪際しないでェ」
「にゃははは」
たった今、反逆者として落ち延びてきた者たちにしてはまるで悲壮感がない。
彼らの丁々発止を眺めながら、老人、スイフト爺は感心していた。
「うむうむ。そなたらのような若者たちこそが、次代のこの世界をより良く作っていくのであろうな。うむうむ」
「はあ?」
全員が一斉にスイフト爺を睨みつける。
ちなみに彼は今もなお、一緒に連れられてきたとき同様、巨漢のシャマンに首根っこを掴まれぶら下がったままだった。
おかげでレッキスと目線の高さが一致する。
「あのね爺さん! あんたが余計なことを吹聴したおかげで、ウチらこんな目に遭ってんでしょうよ」
「しかもよりによって旅立ちの朝にな」
「間が悪かったにゃ」
ウィペットとメインクーンもしかめっ面を隠そうとしない。
「仕方あるまい。しかしな、どうせそなたらは見張られておったんじゃ。明日旅立とうが、昨日旅立とうが、旅立とうとすれば止められていたはずじゃよ」
「そ、そうなのか?」
「数日前から監視役がそなたらの行動を見張っておったそうだ。おそらくここにもすぐに追ってくるじゃろう」
「ハッ! なめんなよ、爺さん」
シャマンがようやくスイフト爺の首根っこから手を放し、しかし丁寧に地面に降ろしてやった。
「オレたちがここにいるってこと、そんなに早くバレるわけないだろう」
「そうだよ! 奴らの隙を突いて脱出したんだ。逃走ルートを見出されないためにあえてミナミに派手に演出してもらったりしてさ。ねえミナミ?」
「えっ?」
「ミナミも当然真っ直ぐここに来ずに迂回してきたんだよね」
「え……」
メインクーンにそう言われて初めてミナミはそのことを考慮していなかったことに気が付いた。
「方角を悟られるようなこと、してない、よね?」
「えっ、と」
「どうなんだ、ミナミ?」
シャマンまでミナミをまっすぐ見つめてくる。
「だ、だってぇ、私このあたりの土地勘ないし、迷子にならないよう、あ、あと遅れたりしないよう……一直線に来ちゃった……」
「まっすぐ来ちゃったのぉ?」
「だぁ、おいこらミナミィ」
「ご、ごめんなさぁい」
謝るミナミに嘆息する猿と猫ではあったが、兎と狐は笑いをこらえるのに必死でいた。
仕方なく犬が間を取り持とうと行動を促した。
「すぐここを離れるべきだな。フリッツのことだ、じきにここへやって来るぞ」
「いやぁ、もう来たみたいよ」
ウィペットの提案をレッキスが遮った。
レッキスの伺う先、森の木々の間にちらちらと人影が見えていたのだ。
どうやらすでに憲兵たちはこの〈聖域〉である太古の森に到着したらしい。
とはいえそれなりの広さを持つ森なので、この場所を特定されるにはまだ時間がありそうだ。
「やばいな。囲まれる前に移動するか」
シャマンの提案の前にクルペオが割って入る。
「ご老人、時間がない故、姫神についてわかったこと、手短にお話願いたい」
「おう、いいぞ」
「えらい簡単に言うなぁ。口止めとかされてないのか?」
「ワシは学者じゃ。調べて得た知識を広く喧伝するのが務めじゃ。知る権利は万民にある」
「ご立派なこって」
「それで?」
クルペオが先を促す。
ミナミも自然、身を乗り出してしまう。
なんせ自分に関わることなのだ。
「うむ」
そのミナミを見つめながら、スイフト爺はとうとうと語りだした。
――いつ、始まるかは、ようとして知れず。
――七人の姫神、異界よりまかり越す。
――その力は超常なり。
――されど七人、弱きものなり。
「これは姫神について、まず初めに語られる一節のようじゃ」
「七人? 姫神とは七人もいるのか?」
「弱きものだって。そうは思えないけどね」
「その力は超常なり、と前段で言っておいてな」
「つかやっぱり異世界人なんだな、お前」
「で、なにしに来るん?」
「ええい! 少し黙って聞かんか」
各々が語りだすのをスイフト爺が一喝する。
「コホン。あ~、姫神は数百年に一度、この世界の至る場所に現れる、らしい。そして最後のひとりに残った者が、この世界を新たに創造する力を得る、らしい」
「らしい、らしい、ってそれほんとに信じられる話なのか?」
「うるさいぞシャマン。なんせ姫神について書かれた文献なんぞ、ほとんどないのだからな」
「そうなのか?」
「原因は不明じゃが、それでも各地の口伝や多少の文献、伝説など手当たり次第にあたって得た知識じゃよ」
「最後のひとりって、七人の姫神はどうなっちゃうの?」
それまで黙っていたミナミがおもむろに口を開いた。
心なしか表情に不安が見て取れる。
「わからん。現れた姫神がその後どうなったか、実際に過去、〈姫神が創造した世界〉についての具体的な例もあまり見つからんかった」
「あまり、ってことは」
「うむ。わずかな例としてだが、かのエスメラルダ古王国を建国したのは姫神であったとする伝説が見つかった。それもな」
「うん」
「あの国の国教サキュラ正教の信奉する〈慈愛の女神サキュラ〉こそ、その当時の姫神であったとする説まであるんじゃよ」
「ふぅ~ん」
ミナミの地味なリアクションにスイフト爺は拍子抜けする。
「なんじゃ? 気の抜けた返事じゃな」
「ん、だってさあ、宗教興して国を興してって、別に姫神じゃなくても出来る人なら出来ることだしさあ」
政治や宗教といった類はミナミにはあまり関心のない事でもあった。
「じゃがな、エスメラルダの国史を紐解いても、そのようなことは書かれておらん。おそらく何か秘密があるのじゃろう。歴史にな」
「なるほど。ま、とにかくミナミにはいろんな可能性があり、そして似たような奴が他に六人いるんだな」
「評議連はおそらくミナミのその力を利用して、五氏族連合の国力を上げようとでも算段しているのやもしれぬな」
「ドワーフ連中が突然買い渋りだしたのが危機感を煽ったのかもしれねえな」
「それで慌ててミナミをキープしようと動き出した?」
「でも、それだって元をたどれば盗賊都市マラガが壊滅したせいであって、その原因は二人の姫神、なんよね?」
「ああ、てことはだな……」
「シャマン、そこまで!」
メインクーンが手を上げて一同の議論を止める。
「ついにフリッツの野郎が来やがったか?」
「ううん。それもあるけど、信じられないことが……」
「なんでぇ?」
「あれ!」
メインクーンが空を指さす。
方向は北。
この〈聖域〉から北にあるのは〈浮遊石地帯〉と呼ばれる砂漠。
「な、なんだァ」
「あれは、まさか」
「うん……ガム・デ・ガレだよッ」
北の砂漠地帯でしか発生しない浮遊石嵐ガム・デ・ガレ。
その奇岩の嵐が、まさかフィフスの中心地で発生するとは。
そんな異常気象は一行の知る限りまったくもって初めてのことであった。






