【第76話】オートレント部隊

 ナナがセンリブ森林に到着する頃にはとうに朝陽は昇っていた。
 夜半にかけて全速で走りとおした馬も乗り手も疲労の色を隠せずにいる。
 しかし休んでいる暇はなかった。

「全員下馬! 馬はこの場に繋ぎ止めろ。エルフの里まで進軍を開始する」

 森の中では馬の機動力は活かせない。
 徒歩で移動するよりない。
 隊列を組み直し、森を切り開いた道を駆け足で進軍する。
 ほどなく先行するスガーラから報告が入った。

「ナナ様、前方よりエルフのオートレント部隊接近」
「数は」
「およそ二十」
「巡回だな」

 オートレントとはエルフが乗りこなす乗り物で、木の精霊ドライアードを動力に低空飛行する小型のバイクである。
 森に入った途端に遭遇戦となった。
 前方から疾駆してくるエルフもこちらの存在に気が付いたようで、剣を抜いて速度を増した。
 車輪もなく地上スレスレを滑空するオートレントは森の中では馬よりも速く小回りも利く。

「こちらに気付き、なお正面から来るかッ」

 相手の威嚇行動に腹を立てたナナは正面に仁王立ちすると大声で命令を発した。

「各自散開! 木々の合間へ退避せよ! 第一隊は私の元へ」

 五百のうち四百が道を外れ木々の生い茂る闇へと退避する。

「第一隊、三人組、横一列!」

 ナナの命令に素早く兵が陣形を整える。
 三人一組となった兵が横一列に並ぶ。
 第一隊の隊長がナナの背後に着いた。

「敵は我らの間をすり抜けながらかく乱を狙う戦法だ」

 向かって来るエルフから一斉に矢が放たれた。

「一の手ッ」

 三人一組のひとり目が飛来する矢を盾で受け止めた。
 オートレントに乗ったエルフが猛スピードで横一列の兵の隙間を突っ切ろうとする。

「二の手ッ」

 二人目が立ち上がりシャムシールで斬りつける。
 だがエルフも全機、その曲刀をかいくぐり陣形を突破する。

「三の手ッ」

 だが三番手に控えていた兵たちが、すり抜けていくエルフの背中に向かい矢の雨を放った。

「ぐっ!」
「ぎゃぁっ」

 矢の命中したエルフから悲鳴が上がる。
 半数以上のエルフに手傷を負わせたが、戦闘不能に陥った者はわずかだった。
 エルフ達は旋回すると再びナナ達に向かって突撃を開始した。
 どうやら退く気はないらしい。
 二十機足らずのオートレント部隊が今度は二列縦隊となり迫ってきた。
 戦闘は盾をかざし、そのあとを剣を持ったエルフたちが続く。

「ナナ様! 奴らは厚みをかけて突撃してきます」
「無駄なことを」

 ナナも剣を抜くとエルフに向かい力強く突きつけた。

「第二、第三隊、ェーッ!」

 木々の合間に退避していた兵たちが、エルフたちの側面から挟むように矢を放った。
 その素早い連携に対処できないエルフたちが次々と撃ち落されていく。
 かろうじて矢の雨を生き抜いたエルフが一機だけ、白刃を閃かせてナナの目前にまで迫った。

 ザシュ ザシュ ザシュッ!!

 刃が斬り裂く鋭い音が数度流れた。
 ナナの前に立ちふさがった第一隊の兵たちにより、その一機のエルフも無残に斬り捨てられていた。

「殲滅完了しました」

 二十機のオートレントに乗ったエルフに生き残りはいなかったが、ナナたちに負傷した者はひとりもいなかった。

「エルフの乗り物は動かせるか?」

 ナナはスガーラに調べさせたが、オートレントはすべて駆動を停止していた。

「無理です。動力源の精霊が逃げてしまいました。精霊魔術を使えない我々人間には動かせません」
「そうか。なら捨て置け。進軍を再開する!」

 ナナの号令で兵たちは整然と進軍を再開した。
 ハナイが囚われた目指すエルフの住処はもう目と鼻の先だった。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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