泥だらけの道をひた走るタイランとウシツノの前方にうずくまる影が二つあった。
先を走るウシツノはすぐに二人に気が付いた。
「アカメッ! シオリ殿ォ」
その声にハッとした二人が起き上がり向こうからも駆け寄ってきた。
どうやら負傷していたのではなさそうで、その点をウシツノは安堵した。
だが近寄ってきた二人の顔に暗い陰が差していることに一抹の不安を覚える。
「ウシツノ殿、申し訳ありません……レイさんとはぐれてしまいました」
「なんだってッ」
ばつの悪そうな顔で答えるアカメをシオリも心配そうに見ている。
「こんな所でひとりでいては危険だな」
「それがですね……」
タイランの言葉にアカメが地面を指し示す。
「おそらくレイさんはインバブラさんと一緒だと思われます」
「インバブラだって?」
正直ウシツノは彼のことをすっかりと忘れていた。
急にその名が出てきてつい素っ頓狂な声を上げてしまったのだ。
「ええ、見てください。ここにレイさんの靴跡と、もうひとつ別の足跡があります。カエル族のものに違いありません」
「ならヌマーカの可能性も……」
「いえ、べた足で歩くこの形はヌマーカさんではありませんよ。あの方は常にかかとを上げて歩いてましたので」
「連れ立っているのなら、ひとりでうろついているよりはマシか」
タイランの言葉にウシツノとアカメは顔を曇らせた。
「だといいのですが……」
「とにかく探そう」
二人が歩きかけたその時だった。
「悠長な奴等だな」
「えッ]
突然にかけられた声のした方を見ると、月の光に照らされて、白鳥の騎士が太い幹にもたれて立っていた。
ナキだ。
「お、お前ッ!」
「よせ。もう闘うつもりはない」
ウシツノが刀に手をかけるとナキは両手を開いて戦う意思がないことを伝えた。
「ナキ……」
タイランに向かいナキはひとつため息をついて見せる。
「先程、数匹のトカゲ族と共に歩くニンゲンとカエルを見かけた」
「なにッ」
ウシツノとアカメの脳裏にレイとインバブラが思い浮かぶ。
「おそらくあれは黒姫だろうな」
「捕まってしまったのか……」
「どっちへ行った?」
うなだれるウシツノの肩に手を置きながら、タイランがナキに尋ねる。
「カザロ方面だ」
「オレたちの村ッ」
「追うなら急いだ方がいい。トカゲどもは手負いだった。急げば追いつくかもしれん」
「ナキ、なぜ……」
「知らぬわ。さあ行け! コクマルが目を覚ますとまた騒ぎ出すぞ」
「かたじけないッ」
「ありがとうございますッ」
ウシツノとアカメが一礼し、シオリを伴って駆け出した。
「ナキ」
「タイラン」
二人は何も言わずに見つめあったが、タイランから先に目線を外し、先を行く三人の後を追った。
ナキはしばらくその場を動かなかった。