【第20話】アマンの決意

 爆発は村の中央広場で起きたようだ。
 アマンがさっきまでいた場所である。
 たくさんの思い出がある広場で、今は無残にも村人たちの屍が山と積まれているあの場所だ。
 炎と黒煙が立ち上り、熱風がここまで吹きこんでくる。
 何か巨大な物体が落下でもしたのか。
 広場には溶岩と化した岩が赤く縁取る、大きなクレーターができていた。
 この辺りに待機していたトカゲ族の兵士であろう。
 周辺に何匹もの黒焦げた遺体が散らばっている。

 突然の事態にボイドモリも、ゲイリートも、他のトカゲ族の兵士たちも戸惑っていた。
 それはアマンも同じこと。

「なんだ? 訳が分からねえぞ」

 ボイドモリが周囲の部下を怒鳴り散らしている。
 ゲイリートは数匹の部下に状況を確認するよう指示を出す。

「何が爆発した!」

 爆心地の方角から兵士が息せき切って報告をもたらした。
 それは思いがけないものだった。

「二、ニンゲンです」
「ニンゲンだぁ?」

 ボイドモリが何を馬鹿な、という風で聞き返す。
 するとまた別の兵士がやってきて、違う報告をもたらした。

「ド、ドラゴンですッ! ドラゴンが現れました」
「ドラゴンだって?」
「えぇい! 何を言っている! 埒が明かん」

 業を煮やしたボイドモリとゲイリートは、爆発のあった広場へと、部下を連れて駆け出して行った。
 とうにアマンの事など頭から消え失せてしまったようだった。

「ドラゴンだって? それともニンゲン?」

 アマンはそこに立ち尽くしていた。
 先程までの追い詰められた悲壮感はすでにない。
 混乱の中もたらされた、トカゲ族の報告に目を輝かせている。

「お、おいアマン。チャンスじゃねえか。今のうちに逃げようぜ」

 インバブラに後ろから肩をぐぃ、と引っ張られる。

 逃げるだって?
 そんなはずがあるか。

「インバブラ」
「おう、行こうぜ」

 確かに逃げるなら今のうちだろう。
 だがアマンは今朝、白角の舞台でシオリというニンゲンに出会ったところだ。
 そして今、この爆発の主がニンゲンかもしれないという。
 それはシオリのことか、はたまた別の?

「お前だけで行け」
「あ?」
「オレは残ってこの目で確かめてくる」

 どっちみち確認しておく必要があろう。
 今トカゲどもは混乱している。
 もう見つからないように行動すれば大丈夫だ。
 その前に伝えておかないといけないことがある。

「インバブラ」
「なんだよ?」

 アマンは背負っていた分厚い刀をインバブラに渡した。

「こいつをウシツノの旦那に届けるんだ。形見だと言え」
「ど、どこにいんだよ?」
「アメの洞窟だ」
「あぁ、やっぱり……」

 わずかにインバブラの目が泳いだ。

「村のことも全部報告しろ。そしてトカゲどもがそっちへ向かってる事も伝えるんだ。いいな?」
「わかったわかった」

 アマンの右手がインバブラの襟首をつかむと力強く締め上げる。

「ぐぇっ!」
「お前の命を救ってやったんだ。ちゃんとやれよ」
「わかっ……苦しい……ちゃんとやるって」

 解放されたインバブラは軽く咳き込んだ。
 絞められたこともあるが、村中に立ち上る黒煙の影響もあるかもしれない。

「ゲコッ、ゲコッ! ハァ……じゃ、オレ様は行くからな」

 離れた物陰でアマンは辺りを伺っていた。
 すでにインバブラの言葉も聞こえていないようだった。

「いーけどよ。せっかくの逃げるチャンスをねぇ」

 踵を返したインバブラの背中にアマンの声が届く。

「池から行くんだインバブラ。いいな、絶対に伝えろよ。もし裏切ったら」
「へいへい」

 生返事をしながら振り返ったインバブラは、アマンと目が合い身を固くした。
 裏切ったら。
 そのことに対し一切の慈悲は持たない。
 そういう目をしていた。

「わ、わかってるぜ。任せろや」

 アマンの鬼気に冷や汗を流しつつ、インバブラは池へと一目散に駆け出した。

「なんでよりによってアイツが生き残って……」

 それ以上は言うのを止めた。
 とにかく今はあんな奴でも信じるしかない。

 そしてアマンはインバブラと反対へ。
 炎と混乱の渦巻く中央広場へと向かった。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」先行掲載、鋭意連載中、「ノベルアッププラス」には467話(更新停止)まで掲載されています。

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