爆発は村の中央広場で起きたようだ。
アマンがさっきまでいた場所である。
たくさんの思い出がある広場で、今は無残にも村人たちの屍が山と積まれているあの場所だ。
炎と黒煙が立ち上り、熱風がここまで吹きこんでくる。
何か巨大な物体が落下でもしたのか。
広場には溶岩と化した岩が赤く縁取る、大きなクレーターができていた。
この辺りに待機していたトカゲ族の兵士であろう。
周辺に何匹もの黒焦げた遺体が散らばっている。
突然の事態にボイドモリも、ゲイリートも、他のトカゲ族の兵士たちも戸惑っていた。
それはアマンも同じこと。
「なんだ? 訳が分からねえぞ」
ボイドモリが周囲の部下を怒鳴り散らしている。
ゲイリートは数匹の部下に状況を確認するよう指示を出す。
「何が爆発した!」
爆心地の方角から兵士が息せき切って報告をもたらした。
それは思いがけないものだった。
「二、ニンゲンです」
「ニンゲンだぁ?」
ボイドモリが何を馬鹿な、という風で聞き返す。
するとまた別の兵士がやってきて、違う報告をもたらした。
「ド、ドラゴンですッ! ドラゴンが現れました」
「ドラゴンだって?」
「えぇい! 何を言っている! 埒が明かん」
業を煮やしたボイドモリとゲイリートは、爆発のあった広場へと、部下を連れて駆け出して行った。
とうにアマンの事など頭から消え失せてしまったようだった。
「ドラゴンだって? それともニンゲン?」
アマンはそこに立ち尽くしていた。
先程までの追い詰められた悲壮感はすでにない。
混乱の中もたらされた、トカゲ族の報告に目を輝かせている。
「お、おいアマン。チャンスじゃねえか。今のうちに逃げようぜ」
インバブラに後ろから肩をぐぃ、と引っ張られる。
逃げるだって?
そんなはずがあるか。
「インバブラ」
「おう、行こうぜ」
確かに逃げるなら今のうちだろう。
だがアマンは今朝、白角の舞台でシオリというニンゲンに出会ったところだ。
そして今、この爆発の主がニンゲンかもしれないという。
それはシオリのことか、はたまた別の?
「お前だけで行け」
「あ?」
「オレは残ってこの目で確かめてくる」
どっちみち確認しておく必要があろう。
今トカゲどもは混乱している。
もう見つからないように行動すれば大丈夫だ。
その前に伝えておかないといけないことがある。
「インバブラ」
「なんだよ?」
アマンは背負っていた分厚い刀をインバブラに渡した。
「こいつをウシツノの旦那に届けるんだ。形見だと言え」
「ど、どこにいんだよ?」
「アメの洞窟だ」
「あぁ、やっぱり……」
わずかにインバブラの目が泳いだ。
「村のことも全部報告しろ。そしてトカゲどもがそっちへ向かってる事も伝えるんだ。いいな?」
「わかったわかった」
アマンの右手がインバブラの襟首をつかむと力強く締め上げる。
「ぐぇっ!」
「お前の命を救ってやったんだ。ちゃんとやれよ」
「わかっ……苦しい……ちゃんとやるって」
解放されたインバブラは軽く咳き込んだ。
絞められたこともあるが、村中に立ち上る黒煙の影響もあるかもしれない。
「ゲコッ、ゲコッ! ハァ……じゃ、オレ様は行くからな」
離れた物陰でアマンは辺りを伺っていた。
すでにインバブラの言葉も聞こえていないようだった。
「いーけどよ。せっかくの逃げるチャンスをねぇ」
踵を返したインバブラの背中にアマンの声が届く。
「池から行くんだインバブラ。いいな、絶対に伝えろよ。もし裏切ったら」
「へいへい」
生返事をしながら振り返ったインバブラは、アマンと目が合い身を固くした。
裏切ったら。
そのことに対し一切の慈悲は持たない。
そういう目をしていた。
「わ、わかってるぜ。任せろや」
アマンの鬼気に冷や汗を流しつつ、インバブラは池へと一目散に駆け出した。
「なんでよりによってアイツが生き残って……」
それ以上は言うのを止めた。
とにかく今はあんな奴でも信じるしかない。
そしてアマンはインバブラと反対へ。
炎と混乱の渦巻く中央広場へと向かった。