――熱い!
――体が熱い!
――体の奥から爆発しそう!
――助けて!
――助けて!
「アマン! タイランッ」
のしかかる大量の生きる死体に圧し潰されながら、アユミは意識が朦朧としていた。
体は熱くて耐え難い。
炎の熱が制御できない。
次第に視界が狭くなる。
景色が黒から赤一色に。
全身の骨が軋む。
皮膚が膨張する。
声を出そうとするも喉の奥からは奇妙な唸り声しか出ない。
自分の様子がおかしいことはわかっている。
だがそれもどうしようもない。
目を閉じ、できるだけ身体を縮こませて、必死に存在を隠そうとした。
なのにその気持ちとは裏腹に、身体は膨らみ、体温は上昇し、唸り声は大きくなった。
もうどうにもならない――ッ。
「グ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
咆哮が盗賊都市の夜を切り裂いた。
その夜、マラガの街にいた生ある者は皆すべからく、その咆哮を耳にした。
そしてその後に、生き残った者の脳内にその姿は強く刻み込まれることとなった。
アユミに群がり、のしかかっていた蠢く死体全てが吹き飛ばされた。
わらわらと群れ集っていた歩く死体、全てが踏みつぶされた。
そして闇夜を引き裂く紅蓮の炎が立ち上り、街は燃えた。
ズンッ!
地響きが鳴った。
戦場の中心地となっていたヒガ・エンジの屋敷跡に、巨大なドラゴンが立っていた。
全身を赤い鱗に覆われた、身体中から火の粉をまき散らす巨大な赤いドラゴンが。
「グルルル」
喉の奥から炎とともに獰猛な唸り声が響く。
その姿は周囲のどの建物よりもでかい。
巨大な火竜レッドドラゴンが立っていた。
空中を飛びながら髪に巻きつけたレイとアマンを抱えたオーヤはその惨状に見入っていた。
「過負荷だわ。紅竜美人の超暴走に耐えられなかったわね」
チラ、とオーヤは抱えるレイを盗み見る。
あの紅姫の姿を見て、またぞろ不安に陥っているのではなかろうかと心配したのだ。
だが、レイは胸に抱いたカエルに安心して、あろうことか微睡んでいた。
穏やかな寝息が聞こえてくる。
「相当そのカエルが気に入ったようね」
ひとまずオーヤは胸をなでおろしたが、逆にこのカエルを奪われた紅姫は暴走してしまったのだ。
もし紅姫が暴走のトリガーが何であったかを覚えていたら、こちらに狙いを定めてくるかもしれない。
「せっかくこさえた死者の軍団が全滅してしまうわね」
それはオーヤにとっても望ましい事ではなかった。
今はまだ。
カッ!
閃光と爆発音がした。
街の一角が激しい爆発に飲み込まれていた。
レッドドラゴンの口から放たれた超高温の熱射砲線が港方面に向けて放たれたのだ。
その一撃で港湾に立ち並ぶ倉庫がいくつも吹き飛び、停泊していた船舶が何隻も破壊された。
ブレスの熱で湾内の海水は沸騰し、グツグツと蒸気を上げている。
丘の上の上流街から港湾部の間にそびえたつ街の大鐘楼も破壊されていた。
街路を徘徊する生ける死体の群れが崩れた瓦礫の下敷きになった。
当然逃げ惑う街の住人達にも犠牲者は出た。
深夜に繰り広げられる大破壊を目の当たりにした人々は言葉を失っていた。






