「目的地は第一の塔っつったな」
シャマンがギワラに確認を取る。
「そうです。依頼の囚われ人も、メインクーンさんもそこにいるはずです」
「第一の塔って言ったら一番高い塔でしょ?」
「王族の居住エリアだと言ったな」
「まともに行って入れてもらえるわけがないのう」
第一の塔の中階層で立ち止まったシャマンたちは人気のない場所で縮こまっている。
「私に考えがあります」
そう言ってギワラが隠れた場所から顔を出し、通路の奥からやって来るメイドを指し示す。
「ちょうど三人。あのメイドたちの着ている服を拝借しましょう」
レッキスに目配せすると二人で飛び出し一直線に向かう。
「ッ!」
三人のメイドはギワラとレッキスに一瞬驚くだけで、あっという間に気絶させられた。
すぐに手近の部屋に三人を連れ込み扉を閉める。
「ふう。この部屋は空き部屋か。誰もいねえみてえだな」
扉の前に立ち室内を眺める。
控えの間であろうか。
数脚の椅子とテーブルにソファー、調度品の数々が壁際に並ぶ。
「シャマン! 着替えるんだからこっち見ないでよ。ウィペットも」
ギワラはてきぱきと気絶した三人のメイドから衣服をはぎ取り、まとめて縛り上げていた。
目隠しと猿轡も施しクローゼットの中に押し込める。
「ハイランドでは亜人は珍しく、おそらく城内のメイドにはいないはずです」
「尻尾はスカートで隠せるけど、耳はごまかしようがないんよ」
兎耳族のレッキスは耳が長く髪型でごまかせる範囲を超えている。
「お主は耳。私は尻尾が邪魔くさいのう」
狐仙族のクルペオは耳はごまかせそうだが尻尾はボリュームがありすぎてスカートに収まらない。
「それぐらい平気だろう? そこまで細かく見やしねえって」
「まだ見んなッ」
振り向いたシャマンの顔にソファーに置かれたクッションが飛ぶ。
「ぶはっ。それよりオレとウィペットはどうしたらいい?」
「変装しようにも耳や尻尾どころの話では済まないからな」
猿人族と犬狼族はニンゲンから容姿がかけ離れている。
「そちらから上へ」
ギワラが指差したのは窓である。
「は?」
「その窓から出て、壁をよじ登ればちょうど目的の部屋へ行けるはずです」
窓を開けて外を見る。
「高いなんてものじゃねえぞ! それに壁もツルツルでとっかかりもねえ」
「まず私たちが目的の部屋へ向かいます。そこで窓を開けますのでシャマンさん」
ギワラがシャマンの身に着けたパワードアームを指して、
「三番のアタッチメントです」
シャマンが三番の筒をバックパックから取り出す。
「こいつは確か……」
「ロープ・アームです。それでウィペットさんと二人を引き上げます」
「上手く行くのかよ」
「行かせるんです」
扉の外を窺っていたレッキスが誰もいないことを合図する。
「では後ほど」
「シャマン、私たちの服、忘れないでよね」
「オレたちが持ってくのかよ」
「バックパックに入るでしょうよ。ちゃんと畳んで、シワにしないでよ」
バタン、と扉が閉められた。
「合図を待つしかないな」
そう言ってウィペットが脱ぎ散らされた彼女らの衣服を拾い畳み始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
メイドに扮した三人は心持ち速足で歩く。
たまにすれ違う者もいたがあまり不審に思われることはなかった。
戦の雰囲気が誤魔化してくれているのだろうか。
みな自分の役割に忙殺され、あまり細かく注視されることがないようだ。
もうひとつ幸運を言えば、囚われ人のいる部屋は奥まった位置にあるためか、行き交う人の姿もまばらであった。
「警備の者もいないのは気になりますが」
ギワラと同じ疑問をクルペオも抱いていた。
「高貴な身分と思われるからのう。警備やお付きの者がいてもおかしくないのだが」
「なあんか違和感ばかりあるんよ」
それもそうだろう。
ギワラが言うには特に問題もなく目的の部屋の前に着いてしまったのだから。
「歯ごたえなさすぎるんよ」
「囚われ人は重要な人物ではないのかのう?」
「ダンテさんは何も詳しいことは仰りませんでした」
早速ギワラが扉の周囲を調べて回る。
当然カギはかかっているようだが、罠の類は見当たらない。
「閉じ込められているのは確かなようです」
愛用のツールを使い扉を開ける。
「行きましょう」
静かに扉を開けると三人とも中へと滑り込んだ。
「暗い」
レッキスがつぶやいたとおり、部屋の中は暗く、広さも計り知れない。
だがすぐに誰かがいることが分かった。
小さな息遣いと、小さな身動ぎを感じたのだ。
そして、暗闇の奥で向こうから先に声をかけてきた。
「メイドさんが三人、そっと忍び込むなんて。ここに用?」
声が若い。
女の子と言って差し支えない。
ダンテが長年探していたというからには、相応の年齢を経ているものと思われたが。
「バンさん……ですか? あなたを連れ出しに来ました」
「……」
反応がない。
「安心してください。私たちはジルゴ・アダイ卿のご依頼を受けてきたのです」
「ジルゴ・アダイ。あの坊やが」
ダンテは明らかに坊やと呼べる年齢ではない。
「灯りはないん? この部屋」
レッキスが腕を伸ばすとカーテンと思しきものに触れた。
「開けるよ」
誰からも反対意見がなかったので、静かにカーテンを引き開ける。
少しずつ外からの陽光が室内に射し込む。
陽は傾きかけ、わずかに赤くなった太陽が見えた。
三人の足元から徐々に部屋の奥へと光は伸び、やがてテーブルを支える四脚の脚にまで届く。
声の主はまだ見えず、光はついにテーブルの上にまで届いた。
そこに、小さな鳥籠があった。
頑丈そうな鉄の檻で、中に白い毛並みの小動物がいる。
レッキスがカーテンを開け切ると、部屋の全貌が見てとれた。
殺風景なその部屋は、テーブルとその上の檻。
そして中でちょこんと座り込んでいる見たことのない小動物しかいなかった。
「あれ? バンさん?」
「いませんね」
肩透かしを食らったような顔で三人が立ちすくんでいると、
「いるでしよ。ここに。ほら、ここに」
檻の中の白い小動物が名乗り出た。
「えっ?」
「え、じゃないデシ。バンデシ」
バンバンと自身の胸を叩く小動物が流暢に言葉を発していた。
「え、えぇッ! バンって」
「高貴な身分のヒトでは……」
「この、タヌキみたいなのが、そうなのでしょうか」
目を疑う三人の前で、バンと名乗った小さな生き物は、檻の中で偉そうにふんぞり返っていたのだ。







