【第257話】ノーサンブリアの囚われ人

 隠し通路を出た先はまさしく地下牢でなく倉庫だった。
 正確には地下牢に近い倉庫であろうか。
 だいぶ埃のたまった木箱が散乱しており、至るところに蜘蛛の巣も張られている。
 もう長いこと人の出入りがなかったようだ。

「ハイランドの地下牢にはあまり囚人がいないのか?」

 そっと外を覗き見たウシツノが人気のなさに思わず呟く。

「まさかな。んなわけねえだろ」
「ハイランド軍は出陣のため、城内の兵の数がいま極端に少ないのです」

 シャマンに続いてギワラが補足する。

「だができるだけ囚人にも見咎められないように動くべきだな。騒がれては厄介だ」
「目的の囚人はどこにいるのじゃ?」

 ウィペットの指摘に続いたクルペオの問いにギワラが首を捻る。

「それが、どうやらここではないようです」
「どういうことじゃ?」

 ギワラがダンテから預かった城の見取り図を広げ一点を指し示す。

「この王城ノーサンブリアは十本の尖塔が身を寄せ合うように並び立つ構造をしています」

 それぞれ高さが違い高い塔ほど身分が上の者が居住する。

「通常の謁見や執務などは第三の塔で、第一と第二は王族の専用区となります。貴族や騎士、そして使用人はそれ以下の塔に詰めることとなるのですが」

 そこでギワラが指し示していたのは、最も高い塔の部分。

「おい、じゃあなんでその囚人は一番高い塔にいるってんだよ?」

 シャマンの疑問はもっともだ。
 ダンテに救いだしてほしいと頼まれた囚人は、王家のニンゲンだけが住まう場所に軟禁されていることになる。

「ちょっといいですか」

 そこでアカメが会話に割って入る。

「みなさん、依頼内容は正確に理解すべきです」
「どういうことよ」

 レッキスが訝しる。

「ダンテ殿は、囚われているある人を連れ出してほしい、と言ったのです」
「だから?」
「囚人とは言ってません。そして貴族であったあの方が〈ある人〉、などと形容するということは」
「それなりの身分、ということか」

 ウィペットの推察にアカメはそうです、と答えた。

「つまりオレたちが連れだすのは地下牢の囚人なんかでなく、軟禁状態にある王族クラスのお偉いさんってことかよッ」

 予想以上の難易度にシャマンが渋い顔をする。

「これは救出などではなく、下手したら営利誘拐かもしれぬ」
「それじゃ、オレたちお尋ね者じゃねえか」
「今さらじゃがのう」
「あ、ぐぬぬ」

 クルペオのツッコミにぐうの音も出ない。
 シャマンたちはとっくにこの国ではお尋ね者なのだ。

「一体誰なんだ? そのある人というのは」
「バンという名だそうです。詳しい人物像は教えてもらえませんでしたが」
「バン? 名前だけか?」
「はい」

 ギワラの回答に一同は頭を抱える。

「ところで、桃姫の寝所はどこだかわかりますか?」
「わかりません。彼女はこの国に現れてまだ数ヶ月です。詳しい情報はほとんど入ってません」

 アカメの質問にギワラは明瞭な回答を持っていなかった。

「そうですか。仕方ありませんね。ここに長居は危険です。ウシツノ殿、行きましょう」

 話を切り上げアカメが歩き出す。

「お、おいアカメ、行くってどこへ?」
「第一の塔と第二の塔が王族専用なら、その下から見て回るしかないでしょう」
「て、手当たり次第か?」
「知ってそうな方から教えてもらうのもいいかもしれませんね。探してみましょう。ではみなさん、ご武運を」

 すたすたと歩き始めるアカメをギワラが呼び止めた。

「見取り図はどうしますか?」

 もらった見取り図は当然一枚しかない。
 アカメはそれはギワラが持っておくように、と断りを入れた。

「もう頭に入れましたから。私の自慢は読んだ本の内容を忘れないことです。見取り図も然り」

 言いながら角を曲がってしまったので姿も見えなくなってしまった。

「すまん。オレも行く。お互いの成功を祈る」
「お、おう。無事脱出したら闇医者の所で落ち合おうぜ」

 了解した、と腕を上げたウシツノも、慌ててアカメのあとを追って角を曲がって行ってしまった。

「なんだよ、あいつらも連れないな」
「もともと潜入したら別行動だったんだ。そう言うな、レッキス」
「確かにここに長居は危険です。私たちも行きましょう」

 ギワラに先導されてシャマンたちも行動を開始する。

「目的地は第一の塔だ。まずは居場所の見当のついている、そのバンって奴から当たるぞ」
「メインクーンは第三皇子に連れていかれたのじゃ。なら同じ第一の塔にいるかもしれぬ」
「幸い王も皇子たちもエスメラルダを迎え撃つために出陣している。戻ってくる前にすべて終わらせるんだ」
「戻ってこないかもしれないんよ」
「レッキス、希望的観測は捨てろよ。常に最悪を想定し、それを回避することを考えるんだ」
「わかってるんよ!」

 そうしてシャマンたちはアカメとウシツノが曲がった角とは反対へと向かった。

※この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載、鋭意連載中です。

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