「ウアァァァァァァァァァ」
激しい炎に包まれたアマンの叫び声が響き渡る。
目の前の出来事に御者の男はうろたえるばかりだ。
炎を発する女も不気味だが、それで仲間を焼き尽くそうとするとはまるで理解ができない。
「な、なんなんだよ、テメーらは……」
御者の額に流れる汗は決して炎の熱だけが理由ではなかった。
「お、お前たち、あの女を捕らえろッ」
たまらず二匹のオークに命令を与えると斧を振ってアユミに襲い掛かろうとする。
二匹が炎の柱の脇を通り抜けようとした時、炎から突き出た腕にそれぞれが腕をむんず、と掴まれた。
さすがのオークたちもギョッとして立ち止まった。
掴まれた腕の部分からブスブスと皮膚を燻されて煙をたなびかせる。
掴んできた腕は炎をまとっているのだ。
オークは熱さと驚愕で腕を振りほどき後ずさった。
「ハァッ!」
すると炎の中からアマン発する気合いが聞こえた。
その瞬間、フッと炎の柱が消え去った。
下生えの草は焼け、焦げた匂いが漂う場所にアマンが立っていた。
何事もなかったかのように、腕を組んでその場に仁王立ちしている。
「テメェ、カエル!」
御者は無傷で立つアマンに驚いたが、だが見るからに様子は変わっていた。
緑色の肌が赤く変色していた。
まるで真っ赤に燃える炎の色だ。
カッと目を見開き腕を振ってポーズをとる。
「変身、ホムラガエル! 覚悟しろ悪党ども」
ビシッと御者とオークたちに向けて人差し指を突き付けた。
「ちがーう!」
だがアマンのそんな決め台詞にアユミが大声で異議を唱える。
「なんだよアユミ。今キメてたところだろ」
「アマン! ちがうでしょ! 変身後の名前は、ファイアトードがいいって言ったじゃない!」
「ホムラガエルのがかっこいいだろ?」
「ファイアトードのがいいよお!」
「ホムラだ」
「ファイア!」
「ホムラァ」
「ファイアー!」
「う、う、うるせーぞテメェらァ! おい、オークども! このふざけた連中をやっちまえ」
「グルアァアアアアッ」
「ゴフゴフゴフッ」
猛り狂った二匹のオークがアマンに向かい再度襲いかかってきた。
二対の手斧が勢いよくアマンに振り下ろされる。
「バカめ」
アマンは大地を強く蹴って跳躍すると、空中で一回転してからオークの片割れに向かいとび蹴りを放った。
「アマァンキィック」
「グォォォォッッッ」
頸椎を蹴られて大きく吹っ飛ばされたオークはそれっきり起き上がってはこなかった。
「見たか! オレたちカエル族の跳躍力から繰り出す必殺のキック!」
再び御者に向かいビシッと指を突き付けた。
「チッ! 痛覚が麻痺してようと首折られて死んじまえばそれまでか」
「ちょっとアマン! せっかく貸してあげた炎の力、使ってよぉ」
「わかってるよ」
もう一匹のオークによる攻撃を躱しつつ腕に力を込めると、アマンの右腕を取り巻くように炎が生じた。
「くらえッ! ヒートナッコゥ!」
炎の拳がオークの左わき腹にめり込むと炎が身体全体に燃え移り、そして瞬く間にオークは消し炭と化してしまった。
「バカな! オーク二匹が瞬殺だとッ!」
「イェーイ、やったねアマン!」
アマンは駆け寄ってきたアユミとハイタッチを交わすと、
「さあ、あとはテメェだけだぜ」
アマンは御者の男に向けて拳を握り締めた。
御者は荷馬車に駆け寄って、二頭の馬を荷台から放そうとしている。
「なんだ? 馬に乗って逃げる気か」
御者は二頭の馬に嵌められた黒い轡まで外すと馬を完全に自由にしてしまった。
するとその馬の姿が変わり始めた。
「さあ行け、ケルピー! あの二人を殺すんだ」
馬の体は透き通った薄緑色になり、走り出す足元からはどこからか水飛沫まで噴き出している。
どう見てもただの馬ではない。
「な、なんだ?」
「ヒヒィーーーッン」
透き通った水のような馬は一声いななくと真っ直ぐにアマンとアユミに向かってきた。
「アマン!」
「下がってろアユミ! あの馬も魔物だッ」






